植物大量増殖技術

持続可能な原料農産物の育種・展開および調達を行います

キリングループがホップや大麦などの植物をビール原料としていたことから始まり、1980年代から研究に取り組み確立した独自の植物大量増殖技術は、社会課題を解決する技術として、現在、様々な方面から注目が高まっています。植物大量増殖技術は、世界的にも類例のない「茎の増殖法(器官培養法)」、「芽の増殖法(PPR法)」、「胚の増殖法(不定胚法)」、「イモの増殖法(マイクロチューバー法)」の4つの要素技術から構成されている独自のものです。
植物の増殖は通常は種子や挿し木などで行われますが、栽培時期が限られており増殖率も植物によってはかなり低くなります。しかし、キリンが独自に研究し開発した大量増殖技術によって、親植物と同じ形質をもつ優良植物を、季節を問わず大量に増やすことが可能となります。
キリンが2018年、2019年に実施したTCFD提言に基づくシナリオ分析では、気候変動により原料となる多くの農産物で収量に大きな影響があることが分かりました。植物大量増殖技術は、環境変化に対応した品種の開発が進んだ場合に普及を進めるための増殖や、新品種や絶滅危惧種、有用な植物の大量増殖にも役立ちます。アグリバイオ事業からの撤退など、一時技術が消滅する危機もありましたが、現在ではキリンのコア研究領域の1つとして位置付けられています。

袋培養型技術

キリンの植物大量増殖技術は、研究開発に留まることなく、実用的な場面で使える技術としても確立しています。それが「袋型培養槽」です。通常用いられるステンレスやガラス製のタンクは、非常に高価な上に微生物汚染発生時のリスクが高いなど、植物苗の実用生産には向きません。キリンが開発した樹脂フィルム製の袋型培養槽では、生産/作業効率が高く、軽量かつ安価で、作業上の安全性も優れ、生産規模を柔軟に調整できるという特長があります。また、小型の袋の内部で植物の生育に必要な養分を含んだ溶液に通気をしながら植物を増殖させるため、土壌栽培よりも水を有効利用できる上、ウイルス・病原菌フリーの状態が作りやすくなっています。袋型培養槽は、イモを増殖するマイクロチューバー法の研究から生まれ、他の増殖技術用に改良が進みました。
キリン中央研究所は、農林水産省のプロジェクト「東北地方海岸林再生に向けたマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ種苗生産の飛躍的向上」に2014年から2年間参画し、津波で壊滅的な被害を受けた海岸防災林の再生に取り組んでいます。2017年に、開発技術を用いて作製した苗をキリンビール仙台工場に試験的に植樹しました。2018年には、開発に協力いただいている宮城県柴田農林高校の生徒さんたちと同苗の調査を行うとともに、宮城森の会の植樹活動にキリンビール仙台工場とともに参画し、東松島市の海岸被災地に新たに試験植樹を実施しました。
キリン中央研究所は防災林の早期再生に貢献すべく、今後も研究開発を継続していきます。

  • 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(中核機関:国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター東北育種場)
  • 不定胚の培養

  • 袋型培養槽

  • 不定胚から育成した試験植樹苗

  • 仙台工場での試験植樹の調査状況

月面農場への貢献

キリン中央研究所は、2017年から文部科学省による月面基地プロジェクトで、「袋培養型技術を活用した病害虫フリーでかつ緊急時バックアップも可能な農場システムの研究」を産学連携で実施しました。
ビタミンC源としてのレタスの植物体、炭水化物源となるジャガイモの種イモ、タンパク質源となるダイズ苗を対象とした低圧環境下での生育可能性の実験を行い、加えて栄養成分評価、物質収支評価を行った結果、地球上の常圧下と同様の増殖形態を再現することができました。
今後も産学連携で本技術を発展させ、今回研究を行っている月面農場のJAXAほか宇宙機関への提案につなげていく予定にしています。