キリングループ人権方針

グループ人権方針の策定とプロセス

キリングループ人権方針

1. 私たちが人権を尊重する背景

私たちは、『キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します』を経営理念に掲げ、食・ヘルスサイエンス・医の領域で世界のCSV※1先進企業となることを目指しています。

事業活動を通じて社会課題の解決を図り、社会と共に持続的な成長を果たしていくためには、人権の尊重は大前提であり、全ての事業活動の土台と位置づけています。

キリングループは全てのステークホルダーの人権を尊重することを重要な経営課題と捉え、継続的に取り組んでいくとともに、そのための体制も整備していきます。

私たちはあらゆるステークホルダーの人権を尊重し、人権への影響の特定、予防、低減に努めるとともに、是正のための適切な処置を実施します。
さらに、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの取り組みを通じてイノベーションを加速し、ポジティブなインパクトを生み出すことを目指すことで、一層の社会的価値の向上に貢献していきます。

2. 人権方針

人権は、生まれながらに誰もが持っている権利です。
キリングループは、「すべての人間が生まれながらにして、自由であり、かつ尊厳と権利について平等である」※2との考えから、人権方針(以下、本方針)を、事業活動における人権尊重の取り組みに関する全ての文書・規範※3の上位方針と位置付け、キリングループ※4全ての役員・従業員※5に適用します。

私たちは、バリューチェーンに関わる全てのビジネスパートナーに対しても、本方針の理解と遵守を求めます。

私たちは、キリングループの全ての事業領域における、研究開発・調達・製造・輸送・流通・マーケティング・販売・サービスの消費・利用・廃棄にいたるバリューチェーン全般のあらゆる活動が、直接または間接的に人権に影響を及ぼす可能性があると捉えています。

私たちは、「国際人権章典※6」及び国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関する宣言※7」「多国籍企業宣言※8」「国連ビジネスと人権に関する指導原則※9」「国連グローバル・コンパクト 10原則」「OECD多国籍企業行動指針」等の国際的な人権の規範※10を支持し、これらに定められる手順に則り、人権を尊重し続けることを約束します。

私たちは、「国連グローバル・コンパクト」に署名しています。

私たちは、各国・地域における法規制を遵守します。万が一、当該国の法規制と国際的な人権規範が異なる場合は、より高い基準に従い、相反する場合には、国際的に認められた人権を最大限尊重する方法を追求します。

私たちの事業活動において人権への負の影響を引き起こし、またはこれを助長したことが明らかになった場合には国際スタンダード※11に基づいた対話と適切な手続きを通じてその救済に取り組むことにより、人権を尊重する責任を果たします

3. 重要な人権課題

私たちの事業を通じて、潜在的に人権への負の影響を受ける可能性のあるステークホルダー、及び関連する人権への影響について把握に努め、負の影響を予防、低減し、負の影響があった場合には是正のための適切な処置を行い、キリングループに関わる全ての人々の人権の尊重に継続して取り組みます。

私たちは、人種・肌の色・民族・国籍・社会的身分・門地・性別・障害の有無・健康状態・宗教・思想・信条・性的指向・性自認、及び職種や雇用形態の違い等に基づくあらゆる差別を認めません。

また、バリューチェーン全般にわたり、脆弱な立場にいるグループが人権への負の影響を受ける可能性が高いことも認識し、脆弱性の高い人たち、女性、子ども、障害者、少数民族、先住民族、言語的少数者等の社会的少数派(マイノリティ)の人権には、特に配慮します。

私たちの事業活動において、バリューチェーン全般にわたり、どのような形態であれ人身取引、奴隷労働や強制労働、児童労働※12を容認しません。

私たちは、人権への負の影響について、影響を受ける方々の視点から理解することの重要性を認識しています。 

  1. お客様
    私たちは、お客様の満足と安全・安心な製品・サービスを提供することに取り組み、属性などを配慮した製品やサービスへのアクセスを推進します。一方、健康を中心とした子どもの権利を尊重し、酒類メーカーの責任としてアルコールの有害摂取根絶に努めます。
    また医薬品メーカーとして、医薬品の安定供給と安全性・信頼性の確保に努め、医薬品へのアクセスを推進するとともに、画期的な医薬品の開発をグローバルに展開し、ひとりでも多くの患者様にLife-changingな価値を提供していきます。
    健康食品をはじめとするヘルスサイエンス事業では、強みである発酵・バイオテクノロジーをベースにした研究開発を発展させ、グローバルな健康課題を解決する新たな価値創造を通じ、人々のウェルビーイングの向上に貢献していきます。
  2. ビジネスパートナー
    私たちは、バリューチェーンに関わる全てのビジネスパートナーに対して、安全で健康的な労働環境の確保、結社の自由と団体交渉権の尊重、法律に依拠した適正な賃金と福利厚生の提供、過重労働にならないための適正な労働時間管理、ハラスメントの禁止、公正な労働条件の保証に加えて、強制労働、児童労働の禁止等に関して遵守を求めます。
    サプライヤーの人権尊重を含めた遵守項目については、「キリングループ持続可能なサプライヤー規範」※13にて定めます。また、私たちはサプライヤー以外のビジネスパートナーについても同様の人権尊重に向けた取り組みが行われることを求めます。
    私たちのビジネスパートナーには、その特性と必要性に応じて人権尊重の理解を深めていただくための説明会や研修会を開催するなど適切な支援をします。
  3. コミュニティ
    私たちの事業の影響を受ける先住民・小規模農家を含む各国・地域社会の人々の土地の権利、水へのアクセス権などを尊重します。          
  4. 従業員
    私たちは、従業員の公正な労働条件と安全で健康的な労働環境を確保します。結社の自由と団体交渉権の尊重、公正な評価と処遇、法律に依拠した適正な賃金と福利厚生の提供、過重労働にならないための適正な労働時間管理、ハラスメントの禁止を含む責任ある労働慣行を推進します。

上記に加えて、私たちは、マーケティング活動等のコミュニケーション※14においても、潜在的な人権リスクへの配慮を行い、差別的な表現や子どもに悪影響を与える恐れのある表現は行いません。
倫理的な研究開発や責任あるマーケティング・販売などのビジネス倫理に関わる人権や、紛争影響国及び高リスク国の人権には特に配慮し、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを実現するとともに、バリューチェーン全般に関連する人権を尊重します。

4. 人権ガバナンス体制と人権啓発活動

キリンホールディングス取締役会は、キリングループの人権尊重の遵守、人権課題への対応方針や実行計画及び取り組み状況を監督する責任を担います。執行役員と取締役兼執行役員については、人権の取り組みが報酬に反映される仕組みを採用しています。

人権尊重の取り組みは、グループ人財統括担当役員が責任を担います。

キリンホールディングスのグループCSV委員会の下位会議体として「グループ ビジネスと人権会議」※15を設置し、人権の方針や戦略及び計画の立案、人権に関するロードマップの進捗状況のモニタリングを行います。会議の内容は、グループCSV委員会へ報告するとともに、取締役会に付議・報告し、グループ全体戦略へ反映しています。

加えて、私たちは国内外の人権実務を遂行する、「ビジネスと人権を担当するチーム」※16を設置しています。同チームは、人権デューデリジェンスや人権課題への救済対応等を実行するとともに、キリングループの役員及び従業員に、定期的に人権尊重の実践に必要な教育や研修を企画・実施、及びモニタリングをすることを通して、キリングループの人権啓発活動を継続的に強化します。

5. 人権尊重に向けた人権デューデリジェンスの実施

私たちが事業を行う国や地域、加えてバリューチェーンの各プロセスにおける様々な人権課題についての理解を深め、「国連ビジネスと人権に関する指導原則※9」、及び「責任ある企業行動のためのOECDデュー・デリジェンス・ガイダンス※17」に従って、私たちの事業と関係する人権の潜在的な負の影響を特定し、予防、軽減する取り組みとして人権デューデリジェンスを実施します。

私たちは、人権デューデリジェンスを継続的なプロセスであると捉えており、バリューチェーンにおける人権課題の特定、是正の計画と実行、モニタリング、情報開示を経て、外部ステークホルダーとのコミュニケーションに至るまでのプロセスを実行していきます。

6. 苦情処理メカニズムと救済へのアクセス

私たちが人権への負の影響を引き起こしたり、助長したことが明らかになった場合には、適切かつ効果的な救済措置を講じます。
取引関係によって私たちの製品・サービスが人権への負の影響に直接または間接的に関係している場合には、是正に向けた役割を果たします。
私たちは、全てのステークホルダーの苦情について、真摯に受け止め、苦情解決に向けて適切な救済措置を行います。
私たちは、人権に関する懸念について、実効性のある通報対応の取り組みとして全てのステークホルダーが利用できる通報窓口※18を設置し、救済へのアクセスの担保と適切な救済措置を実行します。通報者の個人情報保護を徹底し、通報者が不利益な取り扱いを受けたり、脅迫や報復行為を受けることを禁止するとともに、各種人権問題に対する抗議の権利を行使するものを含む人権擁護者に対する脅迫、威嚇、物理的または法的な攻撃を容認しません。

7. 人権コミュニケーションとステークホルダーエンゲージメント

私たちは、人権尊重の取り組みの進捗状況や人権デューデリジェンスの結果などを、キリンホールディングスのウェブサイト等で、適時適切に開示していきます。私たちの人権活動への取り組みを推進すべく、脆弱性の高い人々を含む様々なステークホルダーとの対話を継続します。

本方針は、労働組合を含む社内外のステークホルダーの意見を踏まえて、2018年に策定した人権方針から改定しました。

今後も法令等を含む社会の要請、キリングループを取り巻く経営環境や事業内容等の変化に基づき、定期的に人権尊重の取り組みを見直し、進化させていきます。

制定:2018年2月9日
改定:2023年10月16日

キリンホールディングス株式会社
代表取締役社長

Yoshinori Isozaki

本方針は、当社の取締役会の承認を得て、代表取締役社長が署名します。

注釈
  1. CSV:Creating Shared Valueの略。詳細は以下参照
    https://www.kirinholdings.com/jp/impact/
  2. 国連「世界人権宣言」 第一条より引用
    世界人権宣言テキスト | 国連広報センター (unic.or.jp)
  3. 人権方針に関連する重要な方針「キリングループコンプライアンス・ポリシー」「キリングループコンプライアンス・ガイドライン」
    https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/governance/compliance/
    「キリングループ持続可能なサプライヤー規範」
    https://www.kirinholdings.com/jp/impact/files/pdf/kirin_groupsustainable_supplier_code_jp.pdf
    「キリングループ持続可能なサプライヤー規範」
    https://www.kirinholdings.com/jp/impact/files/pdf/kirin_groupsustainable_supplier_code_jp.pdf
    「マーケティングコミュニケーションポリシー」
    https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/marketing_policy/
    「個人情報の保護」
    https://www.kirinholdings.com/jp/privacypolicy/
  4. キリングループとは、キリンホールディングス株式会社及びキリンホールディングス直下の連結子会社及びその構成会社を指します。
  5. 従業員には、パートタイム従業員・契約社員・派遣社員等を含みます。
  6. 「国際人権章典」は、「世界人権宣言」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」という3つの文書の総称です。「国際人権章典」は、現在、国際的に認められた人権保障の基本的な枠組みとされています。
  7. 「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」には、「結社の自由及び団体交渉権」、「強制労働の禁止」、「児童労働の実効的な廃止」、「雇用及び職業における差別の排除」が謳われています。
  8. 「多国籍企業宣言」の正式名称は、「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」であり、社会政策と包摂的で責任ある持続可能なビジネス慣行に関して、企業に直接の指針を示したILOの文書です。
  9. 「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、2011年に国連人権理事会によって承認されました。国家及び企業に対して、企業活動に関係する人権面での負の影響が発生するリスクの防止及び対処を求める権威ある国際規準となっています。
  10. 「先住民の権利に関する国際連合宣言」「人間を対象とする医学研究の倫理的原則(ヘルシンキ宣言)」「子どもの権利とビジネス原則」「女性のエンパワーメント原則」
  11. 「国際人権法の重大な侵害および国際人道法の重大な侵害の被害者に対する救済と賠償の権利に関する基本原則とガイドライン」(英語のみ)
    Basic Principles and Guidelines on the Right to a Remedy and Reparation for Victims of Gross Violations of International Human Rights Law and Serious Violations of International Humanitarian Law | OHCHR
  12. 「子どもの権利とビジネス原則」に則り、18歳未満の若年労働者を雇用する場合には、肉体的、精神的発達を損なうような危険有害業務への就労を認めません。
  13. 「キリングループ持続可能なサプライヤー規範」
    https://www.kirinholdings.com/jp/impact/files/pdf/kirin_groupsustainable_supplier_code_jp.pdf
  14. 「マーケティングコミュニケーションポリシー」
    https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/marketing_policy/
    「個人情報の保護」
    https://www.kirinholdings.com/jp/privacypolicy/
  15. 「グループ ビジネスと人権会議」は、人事総務戦略担当役員を議長とし、リスク管理統括、CSV戦略、SCM戦略、調達、経営企画の役員または関係部門長を委員として構成されています。年に2回以上定例会議を開催し、また必要ある場合は臨時で会議を開催します。当会議の内容は、グループCSV委員会、キリンホールディングスグループ経営戦略会議や取締役会に付議・報告し、グループ全体の戦略や計画へと反映させています。
  16. 「ビジネスと人権を担当するチーム」は、人事担当、リスク・コンプライアンス担当、調達担当、CSV担当等から構成されたチームであり、人権実務の遂行を担います。
  17. 「責任ある企業行動のためのOECDデュー・デリジェンス・ガイダンス」
    https://mneguidelines.oecd.org/OECD-Due-Diligence-Guidance-for-RBC-Japanese.pdf
  18. 全てのステークホルダーの通報窓口として、JaCERに加入しています。
    JaCER苦情通報サイトhttps://jacer-bhr.org/application/form.html

ステークホルダーとのエンゲージメント

人権方針の見直しにあたり、それぞれの専門領域を持つ人権識者と関係役員で意見交換を行いました。人権識者からご意見をいただき、本方針に取り入れました。ご意見は以下の通りです。

項目ご意見
人権DDのアセスメントについて 広くローカルコミュニティについては触れてはいるが、国レベルの人権の状況にまでは至っていないため、そうした視点を入れることでミャンマーでの学びを生かせると思う。また、これは人権DDにも関連する点で、ローカルコミュニティの人権の考慮も十分に人権方針の中で扱われるべきであると考えている。エンゲージメントを重視する姿勢に同意する。
ポジティブインパクトについて キリンが人権へのポジティブなインパクトを生み出そうとしていることに敬意を示す。一方で冒頭にポジティブなインパクトを目指すと書いてあるが、具体的なインパクトが見えてこない。一足飛びに、社会へのポジティブなインパクトに向かうと理解が難しいと思うが、最も身近な従業員からポジティブなインパクトを作っていく、とした方が文脈的にも分かりやすいと思う。
国連指導原則の内容の反映について ステークホルダーの視点で読むと少し違和感がある点としては、UNGPsが求める、企業が最も深刻な人権の負の影響を防ぎ、低減し、対処するという点が十分には入っていないと思う。ステークホルダーとして、各課題に対して、ビジネスパートナーとの連携も含めて、どう対処するのかという観点をより記載することを推奨する。

ステークホルダーエンゲージメントにご協力いただいた有識者

人権弁護士
Chris Sidoti 氏

ILO(国際労働機関)
駐日事務所 代表
高﨑 真一氏

BSR
サンフランシスコ事務所
人権マネジング・ディレクター
Jenny Vaughan 氏

モデレーター:
BSR
東京事務所
マネジング・ディレクター
永井 朝子氏

2023年9月に実施したステークホルダーエンゲージメントの様子(リアルとオンラインのハイブリッド会議)