ヘルスサイエンス戦略担当役員メッセージ

Message from the Senior Executive Officer of Health Science Strategy

2025年5月30日

キリンホールディングス株式会社
取締役常務執行役員
𠮷村 透留

世界的に高まりを見せる健康課題を解決し、
アジア・パシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニーを目指す

基盤市場での着実な成長を実現

キリングループは、世界のCSV先進企業を目指し、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。「健康」を事業領域に据える会社は多く存在しますが、当社グループが目指すのは、健康を通じて事業を行う地域の全ての人々の生きる喜びと心豊かな生活を実現することです。

お客様の健康課題解決のため、我々は「土台の健康づくり」と「個別の健康課題」にフォーカスしたキリン独自のアプローチ方法で取り組みを進めています。日々の食事や運動、休息が大事なのはもちろん、それに加えて免疫ケアを行うことで、人間が元来持っている力を高める「土台の健康づくり」が重要です。「土台の健康」を整えることで、生活習慣病や脳機能、肌の健康といった「個別の健康課題」の解決に効果的に取り組むことができると考えています。深いお客様理解に基づいた市場ニーズを商品開発につなげるR&Dを中心とする技術力と、それらを実現するためのマーケティング力、最適なサプライチェーン、そしてブランド・販売チャネルといった当社グループが持つ強みを最大限に使い、素材からサービスまで、お客様の健康課題に向き合ってまいります。

2023年にオーストラリアのブラックモアズ(Blackmores)を買収し、そして昨年ファンケルの連結子会社化を実施したこと、プラズマ乳酸菌事業の順調な拡大、協和発酵バイオの事業構造改革を進めたことで、ヘルスサイエンス領域の成長基盤が整いました。

アジアパシフィックでの広いお客様接点とナチュラルヘルスにおけるリーダー的ポジションはブラックモアズが持つ強みであり、これまでの当社グループにはなかったものでした。2024年、ブラックモアズは豪州、中国、東南アジア、韓国での収益を計画通りに確保しながら、ヘルスサイエンス事業のグローバル展開をけん引しました。

ファンケルの強みは「不の解消」という創業理念を基盤とした、化粧品事業と健康食品事業の展開です。店舗や通販チャネルを通じた深いお客様理解も大きな強みとしています。2019年の資本業務提携時からさまざまなコラボレーションを行ってきましたが、昨年の連結子会社化により、さらなる価値向上に向けて新たな取り組みを進めています。ファンケルには、国内でのブランド力を強くし、そしてそのブランド力を活用した海外での成長戦略を描き、実行していくことを期待しています。

ヘルスサイエンス領域の成長を実現していくためのベースとなるのは、基盤市場での着実な成長です。国によりブランドの状況は異なりますが、サプリメント、スキンケア、飲料・乳製品の各国・各市場における強いブランドのポジショニングを明確にすみ分けながら積極的な投資をすることで、保有ブランドの基盤エリアでのマーケットリーダーとしての地位をより強固にしていきます。

また我々はキリン、ファンケル、ブラックモアズが持つ強みを掛け合わせることで、それぞれ単独ではできない新たな価値を創り出します。例えば、キリンとファンケルの間では「内外美容の取り組み」について検討を進めています。これは「体の内側と外側それぞれの単体アプローチにとどまらない、より良い肌の健康と美容への新たなアプローチ」をテーマとした、両社の価値を掛け合わせた新たなお客様への提案です。外側のみのアプローチ、効果が一時的といった、従来では解決できていない「肌に関する不の解消」を、ファンケルとキリンの技術や素材、さまざまな資源を活用した商品・サービスを協働で開発し、マーケティングしていきます。

  • このメッセージでの「キリン」は、キリンホールディングス、小岩井乳業、協和発酵バイオを指す
プラズマ乳酸菌入り商品をグループ内外で多数ラインアップ

初の黒字化を実現し、成長軌道に乗せる

そして、このような新たな価値創造において重要な役割を果たすのは、我々の高付加価値素材です。プラズマ乳酸菌関連商品は、2024年も飲料、サプリメント、ヨーグルトといったさまざまな剤形でご愛顧いただいている「免疫ケア」シリーズを中心に伸長し、売上収益240億円と前年比20%弱の成長を遂げました。そして、まだまだ素材としての価値向上が可能と考えています。国内でのマーケティングだけではなく、ワクチンをはじめとした医薬品開発に向けた研究についても継続的に取り組んでいます。今後は国内での基盤をより盤石なものにしつつ、ブラックモアズの販売機能を活用しながら海外展開も進めてまいります。2025年3月には、「BLACKMORES」ブランドにとって初めて、台湾でプラズマ乳酸菌を配合したサプリメントを発売しました。台湾へのプラズマ乳酸菌の進出も初めてとなります。これはブラックモアズが持つ台湾市場での規制に関するノウハウと販売チャネルを活用することで、約8カ月というキリンだけでは到底成しえないスピード感で上市することができました。今回の台湾を皮切りに、豪州・タイ・ベトナムなど、毎年展開エリアを増やしていくつもりです。外部導出も含め、海外での拡大や新たなチャネル開拓により、プラズマ乳酸菌事業の成長を加速させていきます。

さらには、ヘルスサイエンス事業と医薬事業との協業も本格的に始めています。2024年9月、キリンと協和キリンの共同出資によりCowellnex(コヴェルネクス)社を設立しました。研究開発、ベンチャー投資、事業開発の相互連携によりイノベーションを創出していきます。ファンケルは、がん治療中の患者さんの外見の変化やケアの方法を包括する総合情報サイト「Nagomi time」の開設と冊子の配布を2025年1月より開始しました。この取り組みは、2022年12月から協和キリンの協力も得ながら、キリンとファンケルががん患者さんのアピアランス(外見)ケアに関する課題解決に取り組むプロジェクトの一環として進めていたものです。

このように、まずは基盤市場での事業強化とグループを挙げての付加価値の創出によってオーガニックな成長を目指し、2030年には売上収益3,000億円規模、事業利益300億円以上の収益レベルを達成したいと考えています。そして、中長期的な成長機会の探索として、M&Aや新規事業などの検討、チャレンジも行い、さまざまな健康の課題の解決に取り組んでいくことで、「アジアパシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニー」を目指していきます。

今年2025年は、いよいよヘルスサイエンス事業の初の黒字化を実現し、成長軌道に乗せていく重要な一年です。アミノ酸事業等の譲渡にめどが立ち、構造改革が進む協和発酵バイオも新たなステージに向かって進んでいますし、小岩井乳業もヘルスサイエンス事業を乳製品で担う事業としてヨーグルト商品の販売が好調です。我々全員で、強い意志を持って取り組みます。

2025年3月に行われたキリングループ ヘルスサイエンス事業戦略説明会の登壇者写真。左からファンケル 代表取締役社長 三橋英記、キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本部長 𠮷村透留、ブラックモアズ CEO Alastair Symington