CFOメッセージ

コロナ禍による影響を最小化するとともに収益構造の大胆な改革を通じて企業価値向上に取り組む

取締役常務執行役員
横田 乃里也

中期経営計画の進捗:
KV2027の実現に向けた戦略課題は着実に実行

Q1. 2021年度は2019年中計の最終年度です。その進捗状況についてお聞かせください。

2021年2月に発表した業績見通しの通り、2021年度の財務KPIは新型コロナウイルスの感染拡大による影響を大きく受ける見通しです。2020年度と比較すると、コロナ禍の影響は小さくなると予想されるものの、特に日本国内では影響が継続しており、予断を許さない状況にあります。
一方、コロナ禍は、長期経営構想「KV2027」で当社が想定していた環境変化を加速する方向に影響を及ぼしています。キリングループは、国内ビール・スピリッツ事業における家庭用へのシフト、医薬事業におけるグローバル戦略品の価値最大化、健康未充足ニーズに応えるヘルスサイエンス事業の立ち上げ、育成などに注力していますが、これらはいずれも中長期的な外部環境の変化を見据えて推進してきたものであり、KV2027で目指す連結事業利益の目標レベルに変更はありません。
ただし、2027年度に向けた成長カーブは軌道修正が必要であると認識しています。そのために、食領域におけるブランド力の向上や市場変化を捉えた新規事業の育成、研究開発、情報化など、「イノベーションを実現する組織能力」への投資を強化していきます。新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かう前提ではありますが、2022年度には2019年度の利益水準に回復し、KV2027の実現に向けて戦略を加速させるとともに、抜本的なコスト構造の変革も進めていきます。

Q2. コロナ禍による2020年度業績への影響とCFOとしての対応についてお聞かせください。

2020年度の業績は、売上収益1兆8,495億円、事業利益1,621億円と前年度から減収減益となりました。新型コロナ
ウイルスの感染拡大による影響は、医領域においては比較的小さかったものの、国内外の食領域を中心に事業利益を約
660億円押し下げたと試算しています。
こうした中、当社グループは日本国内でコロナ禍の影響が本格化した2020年3月の時点で、投資余力の再評価を行うとともに、投資の優先づけを厳格化し、不急の投資は抑制するよう舵を切りました。また、各事業会社では緊急のコストコントロールを実施し、影響の大きかった国内外の食領域の事業会社を中心に約300億円の効果を上げました。

新型コロナウイルスの感染拡大による影響に対する2020年度の対応

  • 新型コロナウイルスの感染拡大による影響に対する2020年度の対応の図

事業ポートフォリオ:
低収益事業の構造改革は完了
事業ポートフォリオの最適化は継続課題

Q3. 事業ポートフォリオに対する考え方をお聞かせください。

KV2027で描く、当社グループ独自の食・医・ヘルスサイエンスからなる事業ポートフォリオ戦略に対して、以前は株主・投資家の皆様から疑問をもたれることもありました。しかし、KV2027で想定していた環境変化は、新型コロナウイルスの感染拡大によって前倒しで到来したと認識しており、当社の戦略が適切であったと確信しています。
2020年度を振り返ると、食領域はコロナ禍の影響を大きく受けたものの、医領域は安定的に成長しました。また、健康領域の未充足ニーズが顕在化し、既存事業で培った発酵・バイオテクノロジーを生かせるヘルスサイエンス領域の事業機会が明確になりました。今後も、CFOとして事業ポートフォリオの変革を最重要課題として推進していきます。

Q4. 資本市場からはコングロマリットディスカウントを懸念する声もありますが、CFOとしての認識はいかがですか?

コロナ禍でビール以外の事業への関心が高まり、資本市場の理解は進んだと考えています。一方、戦略の実現可能性については、まだ十分な理解を得られていないため、このような懸念に対しては、シナジーの実現、そして医領域、ヘルスサイエンス領域の成長を実績として示すことが求められていると認識しています。また、医領域を担う協和キリンにおける当社の保有比率は53.8%であり、同社の成長のすべてをグループ内に取り込めているわけではありません。加えて、親子上場という課題があることも認識しています。医薬事業の成長とグループシナジーを最大化しつつ、今後の方向性について検討していきたいと考えています。
ヘルスサイエンス領域のファンケルについては、2019年度に33%の株式を取得しました。2020年度には、当社グループの製品を同社のウェブサイトで販売するなど、チャネル面での取り組みが進みましたが、引き続き商品開発や機能効率化の面でのシナジー効果の創出に注力していきます。

Q5. 低収益事業の構造改革の進捗についてお聞かせください。

前中期経営計画で低収益事業に位置づけていたライオン飲料事業については、2021年1月に全株式の譲渡が完了しました。今後、ライオンは酒類と高付加価値飲料に資源を集中して成長を目指します。また、これにより前中期経営計画で掲げた「低収益事業の再生・再編」は一旦の目処が立ったと認識していますが、これからも各事業会社の収益性や効率性を注視し、常に必要な施策を検討・実施していきます。

キャッシュアロケーション:
コロナ禍の影響が顕在化
成長と財務健全性のバランスに注力

Q6. キャッシュアロケーションの考え方についてお聞かせください。

2019年中計で見込んでいた3年間のキャッシュインのうち、営業キャッシュ・フロー7,000億円については、コロナ禍の影響などで1,700億円~1,800億円程度下振れする可能性があると見ています。また、資産売却は、2019年度に計画していたライオン飲料事業の売却が2021年度にずれ込んだものの、政策保有株式の縮減目標は2年目で達成するなど計画を上回って進捗しています。
一方、キャッシュアウトのうち、設備投資についてはこれまで以上に厳選し、グループ全体の資本効率を維持・向上させる観点から規律を働かせていきます。配当については、2019年中計の配当政策に沿って優先的に実施しますが、M&Aなどの成長投資についてはコロナ禍の影響を鑑みて大型案件は基本的に見送る方針です。
2021年度は、ライオン飲料事業の売却によるキャッシュインを含めて、配当後のフリー・キャッシュ・フローがプラスになることを財務規律の目安としています。今後もキャッシュインの状況を考慮し、キャッシュアウトを適切にコントロールすることで、成長と財務健全性のバランスを維持していきます。

キャッシュイン/アウトの状況

  • キャッシュイン/アウトの状況の図

Q7. イノベーションを実現する組織能力(ブランド、研究開発、情報化、人材・組織)への投資の考え方や状況についてお聞かせください。

無形資産への投資によってイノベーションを実現する組織能力を強化することは、KV2027の実現のために不可欠な要素であると捉えています。
すでに成果が表れているマーケティングや研究開発については継続した投資を行っていく一方、情報化と人材・組織への投資は加速する必要があると考えています。情報化については、これまで基幹情報システムの導入などを進めてきており、これらの基盤のもとでDX(デジタルトランスフォーメーション)を実行していきます。一方、人材・組織については、2020年度から始めた「『働きがい改革』KIRIN Work Style 3.0」のもと、情報基盤を活用したワークスタイルの変革を図ります。また、特にヘルスサイエンス領域、情報化の取り組みの加速に必要な人材の獲得などを進め、多様性を生かした組織を構築していきます。

Q8. バランスシートに対する考え方をお聞かせください。

2020年度は、先行きの不透明感を受けて手元資金の確保に注力したため有利子負債が増加し、グロスDEレシオは0.77倍まで上昇しています。一方、政策保有株式、ライオン飲料事業の売却といった施策や、徹底的なコストコントロールによる利益確保で成果を上げてきました。その結果、成長投資を含めた変動性のある資産は資本の範囲で賄えており、バランスシートとしては健全なレベルを維持できていると評価しています。今後も、中長期の成長のために投資が必要となります。引き続き、厳格に投資規律を守るとともに、バランスシートの健全性にも配慮した意思決定を行っていきます。

Q8. 株主還元についての考え方をお聞かせください。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、キャッシュ・フロー計画は大きな影響を受けましたが、これまでの方針通り安定的な配当を継続します。2019年中計から連結配当性向を引き上げて「平準化EPSの40%以上」としており、2020年度も年初の計画通り1株当たり前年度比1円増の65円としました。2021年度も、主に食領域の事業においてコロナ禍の影響が一定程度残るものの、1株当たり配当金は65円とし「上場以来減配なし」の実績を継続する予定です。安定した配当を継続的に行うことは、株主の皆様の要請に応えるものと考えていますので、今後も適切な利益還元を実施していきます。
なお、2019年度から2020年度にかけて1,000億円の自己株式の取得を実施しましたが、今後の自己株式取得については営業キャッシュ・フローの回復状況を見ながら判断していきます。

ステークホルダーへのメッセージ:
2020年度は危機対応を優先
2021年度は再成長のための年に

Q9. 最後にメッセージをお願いします。

2020年度は、新型コロナウイルスの感染が拡大し、危機対応を優先した1年でした。2021年度は危機管理を克服し、コロナ前の利益水準に回復する第一歩であり、KV2027達成に向けて再成長のための重要な年であると認識しています。CFOとして、短期と中長期の両方に目配りした資源配分を行うことで、持続的な成長につなげていきます