CFOメッセージ

2023年4月24日

ポートフォリオ・バランスシートマネジメントで創出したキャッシュで
新たな価値創造を実現し、成長を加速する

キリンホールディングス株式会社
常務執行役員
秋枝 眞二郎

キリングループ2022年-2024年中期経営計画(2022年中計)について
中計最終年度の目標達成に向けて順調に進捗

──2022年中計の内容を簡単に教えてください。

2022年中計は、長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)の実現に向けた2つ目の中期経営計画となります。ヘルスサイエンス事業の規模拡大と収益基盤の整備を行い、食・医・ヘルスサイエンスの3つの領域を持つ事業ポートフォリオによって、環境変化に迅速に対応しながら企業価値の拡大を目指しています。

──2022年中計の重要成果指標(財務目標および非財務目標)について教えてください。

財務目標としては、(1)資本効率:2024年ROIC10%以上、(2)株主価値:平準化EPS年平均成長率11%以上(対2021年度)を掲げています。ガイダンスは事業利益年平均成長率13%以上(対2021年度)をターゲットとしています。

非財務目標については「環境」「健康」「従業員」の3つの項目で、経済的価値向上につながる8つの指標を設定しました。

  • 図:2022年中計の重要成果指標(財務目標および非財務目標)

──2022年度の振り返りと、中計の進捗を教えてください。

ROICは主に連結事業利益の増加により、前年の7.6%から+0.9%改善して8.5%となりました。平準化EPSは連結事業利益の増加と自己株式取得の効果などによって前年より15円増加し、過去最高の171円となり厳しい事業環境下においてもしっかりと結果が出せたと考えています。

ガイダンスである事業利益年平均成長率、非財務目標の項目を含めて、中計最終年度である2024年末の目標に向けておおむね順調に進捗しています。引き続きグループ全体での財務・非財務両面での目標達成を目指し、企業価値向上に努めていきます。

事業ポートフォリオについて
事業環境の変化に対応し、キャッシュの創出と成長投資を継続

──中長期の事業ポートフォリオに対する考え方についてお聞かせください。

KV2027の実現に向けて、事業ポートフォリオの在り方を常に追求していきます。既存の食領域で安定的にキャッシュを創出し、ヘルスサイエンス領域と海外クラフトビール事業への成長投資を行う方針です。医領域ではフリーキャッシュフローの範囲内で成長投資を継続していきます。

取締役会では、年2回以上、事業ポートフォリオやキャッシュアロケーションに関する議論を実施しています。海外クラフトビール事業への投資や持分法適用会社であった華潤麒麟飲料の株式売却なども、こうした活発な議論の場を通じて導き出されました。これまでの取り組みでおおむねコア事業に集中した事業ポートフォリオが出来上がり、当面は各事業の成長や効率化によって、キャッシュ創出力を高めることに注力していきます。

一方で、ヘルスサイエンス領域と海外クラフトビール事業における成長投資については、取締役会でも引き続き議論を続けていきます。

──各事業領域について、現在の課題をお聞かせください。

【食領域】
食領域は主に成熟市場で展開する事業が多く、今後市場も縮小する中で、プレミアム化の推進と生産性向上が課題です。高収益の商品やサービスの拡大に注力していく中で、営業組織の最適化やICT活用を含むSCMの変革によるコスト低減に取り組むことで、事業利益目標を確実に達成していきます。

【医領域】
医領域では、グローバル戦略品の生産・販売基盤の充実と、次世代パイプラインの拡充が課題です。北米における自販体制の構築など、注力するグローバル戦略品については順調に拡大するも、将来の成長の源泉となる次世代戦略品の充実に向けた開発や戦略投資にはより注力していきます。

【ヘルスサイエンス領域】
事業規模拡大と収益性向上が課題です。プラズマ乳酸菌に関する商品の売上成長、協和発酵バイオの高収益が見込める「シチコリン※1」「ヒトミルクオリゴ糖※2」といったスペシャリティ素材のオーガニックな成長に加え、ファンケルとの協業促進やM&Aによる規模拡大を図り、ヘルスサイエンス領域の事業全体として高収益な事業への転換に取り組みます。

  1. 脳や神経細胞にある細胞膜を維持する働きを持つ、体内に存在する成分。世界各国で脳疾患の治療薬や認知機能向上をサポートする健康食品などに利用されている素材。
  2. 母乳に含まれるオリゴ糖の総称。200種類以上が母乳中に含まれており、「免疫」「脳機能」などに寄与する研究成果が報告されている。

バランスシートマネジメントについて
GCMS導入で資金効率化を図りながら、棚卸資産の効率化にも着手

──バランスシート改善の取り組みについてお聞かせください。

2022年中計期間中に1,000億円以上の資産圧縮を行うことで、ROIC10%達成につなげていきます。2022年はグローバル・キャッシュ・マネジメント・システム(GCMS)の導入会社を拡大しました。これによって海外子会社とのタイムリーな資金の集約・供給が可能となり、約400億円の現金残高の圧縮を達成しました。

CCC※3については、SAP導入によるプロセス改善によって100億円の運転資本改善を実現しました。今後はSAP活用やDX推進によるプロセス改善をさらに進め、需要予測精度の向上や必要在庫数量の削減を図ることでCCCのさらなる短縮を目指します。また、政策保有株式の縮減にも継続的に取り組んでおり、2022年には中計目標である「資本合計の5%以下」を上回る、約4.5%を既に達成しました。
各事業の成長もさることながら、バランスシート改善についても積極的に取り組んでいきます。

  1. CCC:Cash Conversion Cycle キャッシュ・コンバージョン・サイクル

──2022年中計におけるキャッシュアロケーションの進捗はいかかでしょうか?

新型コロナウイルス感染拡大の長期化、そして世界的なコスト高騰の影響を受けて、営業キャッシュフローは若干弱まっているものの、引き続き7,000億円※4にできるだけ近い数字の創出に向けて取り組み、キャッシュアロケーションの全体方針は変更しません。

資産圧縮によるキャッシュ創出1,000億円は順調に進んでおり、2022年には華潤麒麟飲料の売却による資金を元に500億円の自己株買いを実施した他、海外クラフトビール事業のM&Aに充てました。安定配当による株主還元を継続しながらも、規律ある設備投資を継続することで、中計で設定した2024年ROIC10%以上、平準化EPS年平均成長率11%以上の達成を目指します。

  1. 中計3年間で創出する営業キャッシュ・フローの総額は約7,000億円を想定

──無形資産への投資の状況について教えてください。

企業価値創出のためには、イノベーションを生み出す基盤となる無形資産への投資も不可欠です。キリングループでは(1)食領域でのブランド育成、(2)医領域での研究開発、(3)デジタル活用などのICT投資、(4)人的資本投資を中心に実施しています。

2022年はコロナ禍や原材料・燃料コスト高騰に対応するため投資の見直しを行い、広告費を中心にブランド投資を削減しました。2023年は各事業における価格改定やコスト削減による収益基盤の確保の目途も付いたことから、中長期でのブランド育成に向けた投資を強化していきます。

研究開発は医領域で将来のパイプライン拡充のための投資を継続するとともに、ヘルスサイエンス領域でも高収益なスペシャリティ素材の創出・拡充に向けた取り組みを強化する方針です。

ICTへの投資では、これまで取り組んできた業務プロセス効率化の取り組みに加え、将来に向けてデジタルICTを活用した価値創造につながる取り組みを強化していきます。

人的資本については人財戦略を通じて「専門性」と「多様性」を兼ね備えた人財を育成し、組織能力を向上させることで、グループの持続的成長・価値向上を実現します。そのためにDXトレーニングの拡充や機能毎の人財マネジメントの導入を推進していきます。

──株主還元についての考え方をお聞かせください。また、現在の株価水準について、CFOとしてどのようにお考えでしょうか?

キリングループは従来より株主還元を重視しています。2022年においても基本方針に基づいて平準化EPSに対する配当性向は40%以上を維持しており、4円増配の69円を配当しました。今後も、安定的かつ継続的に配当していく方針です。一方、安定配当を長期的に実現するためには、成長のための投資も重要と考えています。そのため自己株取得については、創出したキャッシュと成長投資のバランスを考慮しながら、機動的に検討していきます。

現状の株価水準については、株主・投資家の皆様に十分にご満足いただける水準にないことは私ども経営陣も認識しています。KV2027実現に向けて事業ポートフォリオの検討を継続しながら、各事業領域の成長と収益力向上に取り組んでいきます。中でもヘルスサイエンス領域の早期拡大と収益化を通じてステークホルダーの皆様にキリングループの将来の可能性をご理解いただくことで、適正評価に基づく株価水準の実現を目指します。

最後に
KV2027に向けて成長を加速する

──最後にメッセージをお願いします。

キリングループの持続的成長のためには、各事業会社が自律的に組織能力を高め、短期の目標達成に向けたPDCAと、将来の価値創出に向けた取り組みの実行の両輪を回していくことが必要です。事業会社に寄り添い、ホールディング・カンパニーならではの視点で対話を行うことで、各事業とともに課題抽出と具体的解決手段の実行を行っていきたいと思います。そして、経営戦略と財務戦略を融合し、それぞれの事業の将来キャッシュフローを常にローリングしながら、グループ全体の事業ポートフォリオの最適化を絶えず考え続ける経営を行い、企業価値最大化に貢献してまいります。