CFOメッセージ

「新たな成長軌道」を描き、
事業構造改革の実行と
新たな価値創造により成長を加速する

取締役常務執行役員
横田 乃里也

2019年-2021年中期経営計画について

財務KPIは未達も、新中計の成長基盤が整った。

――2019年-2021年中期経営計画(以下「前中計」)の振り返りとともに、2021年度の実績について教えてください。

2019年から2021年の平準化EPSの年平均成長率は△2.2%、2021年のROICは4.2%と、いずれも中計の目標(平準化EPS+5%以上、ROIC10%以上)を達成することができませんでした。新型コロナウイルス感染拡大やミャンマー国での政変といった外部要因に加え、協和発酵バイオの品質管理問題が大きく影響したものと考えています。

しかし2021年単年では、期初に掲げた財務KPI(平準化EPS 147円、ROIC 7.6%)のうち、ROICはミャンマー事業の減損により未達となったものの、平準化EPSはコロナ禍以前となる2019年の水準(158円)に近い156円まで巻き返し、目標を達成しました。

前中計の非財務KPIについては、従業員エンゲージメントが72%まで伸長し目標を達成、企業ブランド価値も目標の2,200百万ドルを大きく上回る2,476百万ドルとなるなど、大きな成果を上げました。CSVコミットメントについては活動制限がある中、未達の指標もあったものの、特に環境分野の取り組みを着実に進めることができました。

――外部要因について、それぞれ具体的な影響と対応を教えてください。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、事業利益は2020、2021年の2年で1,000億円以上減少しました。また、ミャンマー国における政変は、ミャンマー事業の事業利益を2021年に対して100億円の押し下げ影響がありました。強い逆風が吹く中、コスト削減は2年間で600億円以上を積み上げ、減益影響を最小化させました。

ミャンマー事業への対応については、当初キリングループによる事業継続を前提とし、合弁パートナーであるMyanma Economic Holdings Public Company Limited(以下、MEHPCL)との合弁解消に向け協議を続けてきました。しかし、MEHPCLとの協議やシンガポールでの仲裁提起などを通し、当社が望む形で合弁を解消することは困難であると判断し、当社がミャンマー事業から撤退する方針へ転換しました。なお、撤退計画の策定に当たっては、現地従業員とその家族の安全を最優先の上、当社人権方針に基づきステークホルダーに最大限配慮していきます。

――前中計の成長投資について教えてください。

KV2027の実現を念頭に、食領域では収益力強化に向け、高付加価値商品・サービスへの投資を着実に実施しました。キリンビールでは、2019年に名古屋工場へ50億円、2020年は仙台工場に75億円を投じ、RTDの製造ラインを増強するとともに、高付加価値RTDの商品展開を加速しました。また、クラフトビール「スプリングバレー 豊潤<496>」への投資を強化したほか、2021年からは「キリン ホームタップ」の本格展開でさらなる高付加価値化を推し進めました。

一方、海外事業では、2020年に約400億円を投じてアメリカのクラフトビールメーカーであるNew Belgium Brewingを子会社化したほか、2021年にはオーストラリアのFermentumを買収するなど、海外クラフトビール事業の強化を行いました。

ヘルスサイエンス領域では、2019年に(株)ファンケルとの資本業務提携を発表。株式の約33%を1,295億円で取得し、チャネルの相互活用や共同開発商品の発売を進めました。また、協和発酵バイオでは、「シチコリン」と「ヒトミルクオリゴ糖」の製造ラインを増設するなど、次世代戦略素材の生産能力を増強し、成長拡大の基盤を築きました。

2022年-2024年中期経営計画について

バランスシート、ポートフォリオマネジメントで創出した
原資を成長ドライバーへ投資。「新たな成長軌道」を実現。

――2022年-2024年中期経営計画(以下「新中計」)における財務KPIや事業利益のガイダンスについて教えてください。

前中計では、主に「変革の基盤づくり」に取り組んできましたが、新中計においては「新たな成長軌道」へと進んでいくため、食・ヘルスサイエンス・医の3領域に経営資源を投入していきます。

財務KPIについては、ROIC 10%以上、平準化EPS年平均成長率11%以上を目指します。ガイダンスは事業利益年平均成長率13%以上(対2021年度)をターゲットとしています。

  • 資本効率と株主価格の図

  • 資本効率と株主価格の図

非財務KPIについては、ステークホルダーからの期待を踏まえ、「環境」「健康」「従業員」の3項目で、より経済的価値に直結する8つの指標を設定しました。これにより「価値創造モデル」のINPUT、BUSINESS、OUTPUTを強化し、より大きなOUTCOMEにつなげることでCSV経営を深化させていきます。

  • 非財務指標の図

――食・ヘルスサイエンス・医の3領域における具体的な取り組みについてお聞かせください。

成長投資の源泉となる食領域では、さらなる高収益化と着実なキャッシュの創出が重要と考えています。新中計においても、主力ブランドでは新型コロナウイルス感染拡大からの回復を見込むとともに、高付加価値商品・サービスの強化によるミックスアップを進めます。また、こうした取り組みと並行して、各事業会社においてSCMにおける事業構造改革による収益改善に取り組みます。

医領域においては、「グローバル・スペシャリティ・ファーマ」としての確かな地位を築くべく、グローバルでの生産・販売を中心とした事業基盤への投資によりグローバル戦略3品の成長を実現するとともに、次世代戦略品の開発も進め、中長期の成長を目指します。

ヘルスサイエンス領域では、「プラズマ乳酸菌」配合商品の展開拡大や(株)ファンケルとの協業継続、協和発酵バイオの次世代戦略素材である「シチコリン」や「ヒトミルクオリゴ糖」によるオーガニック成長に加えて、M&Aによる規模拡大も検討します。

――バランスシートマネジメントの取り組みについてお聞かせください。

新中計期間内に1,000億円以上の資産圧縮を進めることで、ROIC 10%以上の達成につなげていきます。2021年には、グローバル・キャッシュ・マネジメント・システムを導入しました。これにより、在外子会社とのタイムリーな資金の集約・供給が可能となり、現金残高の圧縮につなげました。今後は対象会社を拡大することで、さらなる効率化を実現しながら、余剰資金の活用方法についても検討していきます。

さらに、棚卸資産について改善の余地があると考えており、ERP※1による需要予測精度の向上や、必要在庫数量の見直しによるSCM※2効率の改善によって、着実にCCC※3の短縮につなげます。また、前中計で大きく縮減した政策保有株式については、新中計でも資本合計の5%以下を目標に引き続き縮減に取り組む考えです。

  1. ERP:Enterprise Resource Planning 統合基幹業務システム
  2. SCM:Supply Chain Management 供給連鎖管理
  3. CCC:Cash Conversion Cycle キャッシュ・コンバージョン・サイクル

――中長期の事業ポートフォリオに対する考え方についてお聞かせください。

取締役会では、中長期の事業ポートフォリオ入れ替えについて年1回以上、議論を行っています。2022年2月に公表した華潤麒麟飲料(大中華)有限公司の持分売却も、こうした活発な議論の場を通じて導き出されたものであり、引き続きノンコア事業の売却に積極的に取り組んでいきます。

今後も、建設的な議論の積み重ねによるバランスシート、ポートフォリオマネジメントにより、食領域の変革とヘルスサイエンス領域への投資を加速させていきます。

――新中計期間中のキャッシュアロケーションについて教えてください。

配当後のキャッシュ・フローについては、まず設備投資のうち既存事業に必要な基盤に投入した後、医・ヘルスサイエンス領域を中心とした成長分野に配分します。次に、M&Aについては、配当と設備投資後の余剰分に加え、バランスシート、ポートフォリオマネジメントで生じた資金を充てる予定です。なお、企業価値向上に資する投資機会があれば、負債の活用も有効な手段と捉えています。検討段階において、ROICに基づき企業価値向上に繋がる「規律ある投資」を行っていきます。

さらに、KV2027の実現に向け、イノベーションを実現する組織能力の強化には、無形資産への投資が不可欠です。業績結果に応じた処遇の改善、および能力開発や業務環境の整備を含め、人財への投資を進めていきます。加えて、価値創造の基盤となる研究開発にも、継続的に投資を行っていきます。また、デジタルICTの領域では2022年から稼働を開始したERPなどを最大限活用して、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていきます。例えば最適な生産・物流体制の構築や業務の標準化を実現することで、コストダウン、資産圧縮によるキャッシュ創出へとつなげたり、これから生まれてくる新ビジネスにおいてもデジタルを含めて投資していきます。

  • キャッシュアロケーションの図

2022年の業績計画について

初年度の目標を達成し、新中計のKPI達成を確かなものに

――今期は、原材料費高騰によるコスト上昇や、ERPの稼働による費用増が予想されます。短期的な利益確保のための取り組みについて教えてください。

今期は、原材料費の高騰により約140億円のコスト上昇とERP稼働による約100億円の費用増を見込んでいます。SCMコストや販管費の削減、海外ではコスト上昇分を販売価格に反映するなどの対応により、約110億円の収益改善を図り、加えてトップラインの伸長によってカバーし、前年並みの事業利益を目指します。

ERPの活用により、SCMの最適化や業務標準化によるコスト削減に加え、余剰現金水準の見直しや資産圧縮などによるキャッシュ創出を図ります。

――株主還元についての考え方をお聞かせください。また、現在の株価水準について、CFOとしてどのようにお考えでしょうか?

キリングループは株主還元を経営における最重要課題の一つと考えており、新型コロナウイルス感染拡大の影響下においても配当水準を維持し、上場以来減配なしを続けています。新中計においても平準化EPSに対する配当性向は40%以上を維持し、今後も安定的かつ継続的に配当していく方針です。

一方、成長のための投資も重要と考えており、自己株式取得については、投資機会及び事業売却等で生成されるキャッシュイン・アウトのバランスを考慮しながら、機動的に検討していきます。2022年は、手元資金の状況と華潤麒麟飲料(大中華)の持分売却の状況を鑑み、500億円の自己株式取得を実行する予定です。

現在の株価水準については、株主・投資家の皆様にご満足いただける水準にないことは私ども経営陣も認識しています。ミャンマー問題の解決、食領域・医療域の利益成長、ヘルスサイエンス事業の成長を通じて、新中計のKPIを達成することで株主価値向上を実現していきたいと考えています。そのためにも初年度である今期目標の達成に取り組んでいきます。