価値創造を加速するICT

2023年6月5日

キリングループでは、ICT(Information and Communication Technology)を活用したグループ全体のDXを加速させ、新たな価値を生み出し続けることで持続的な成長を目指しています。

グループ全体のDXを加速させ、新たな価値を生み出し続ける

グループ全体のDXを加速させ、
新たな価値を生み出し続ける

長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)では、イノベーションを実現する組織能力の一つとして、「価値創造を加速するICT」を掲げ、デジタル技術を活用した業務プロセスの見直しを進めるなど、グループ全体のあらゆる領域でビジネス変革に取り組んでいます。

  • 図:キリングループのDX戦略

  • 図:キリングループのDX戦略

DXを継続的に推進し、持続的な成長を実現する

DXを継続的に推進し、
持続的な成長を実現する

近年においては進化するデジタルICT技術をビジネスへ活用する流れがますます加速しており、テクノロジーを活用した新たなサービスが次々と登場しています。デジタル技術の浸透によって人々の価値観も大きく変化しており、従来の考え方や手法・テクノロジーに基づく業務プロセスのままではお客様の求める価値の提供ができなくなるリスクがあります。

一方、お客様のタッチポイントはデジタル技術の進歩によって拡大しており、市場の変化や好みの多様化をより詳細に把握することで、お客様にとって満足度の高い商品やサービスを提供できる可能性が広がっていると認識しています。

不確実性が増す世界で、事業を継続していく上でのリスクを低減し持続的な成長を実現するには、DXの推進が不可欠と考えており、キリングループにおいてもICTの活用を推進してきました。激動する社会の中で永続的にビジネス変革を起こしていくために、今後もグループ全ての事業・機能部門でDXに取り組んでいきます。

DXを推進する組織能力について

キリングループでは、事業・機能部門の現場の従業員が事業課題を見つけ出し、デジタルICTを活用した解決策を企画・設計し、自律的にDXを推進できる状態を目指しています。そのため、課題に対してあるべき姿を描く「企画構想力」を伸ばし、デジタルICT部門主体ではなく「現場主体でDXを推進していくこと」を重視し、組織体制の構築とその担い手となる人財の確保・育成に注力しています。

組織体制については、2021年に各事業会社・部門のDX推進担当者が参加する「グループDX推進委員会」を設置しました。事業会社をまたいだ情報共有や課題解決を目的とし、実際に当社グループ内の取り組みを各社・各部門に波及させるなど、この仕組みを通じた現場主体でのDX推進が始まっています。さらに、2022年には営業、DtoC(Direct to Consumer)、マーケティング、SCM(Supply Chain Management)などの領域ごとの課題解決をグループ横断で進めるべく、当社グループの重点領域を中心に「領域分科会」の立ち上げを行いました。各領域におけるDX取り組みを実行する事業会社の担当者が参画し、単社だけでは取り進めることが難しい課題を、共有・議論することで、領域ごとのDX取り組みの加速につなげています。

人財確保の取り組みとして、2021年4月から、新卒採用においてデジタルICTコースを新設しました。キャリア採用や新卒採用を継続し、DXの推進に必要な専門人財の確保を進めています。一方、社内人財の育成については、2021年7月より当社グループの従業員を対象とした独自のDX人財育成プログラム「DX道場」を継続して実施しています。従業員は3段階のコース(白帯/黒帯/師範)から講座を選択した上で、受講後の認定試験における合格を目指す仕組みとしており、自律的かつ着実にスキルアップを図れる設計としています。

2022年末時点での受講者が白帯約1,200名、黒帯約600名となっており、想定を上回るペースで受講が進んでいます。2022年の開催においては400名の受講枠に対して、2倍以上の応募があり、受講枠の追加を行いました。当社グループにおけるDXが「デジタルICT部門固有の限られた領域の取り組みではない」という共通認識がグループ全体に浸透しつつあります。

今後は、DX道場を受講した従業員が学んだことを生かして活躍できる機会を提供するなどサポートにも注力し、上述のキャリア採用や新卒で加わる従業員とともに現場でDXを企画構想できる人財を増やしていきます。

自律的なDXの推進による価値創出

キリングループでは「業務プロセスの変革」「既存事業の価値向上」「新規ビシネスの加速・開発」により、価値創出を目指しています。

「業務プロセスの変革」では、AIを用いた効率的な商品開発やシミュレーションによる生産・物流体制の最適化など、部門や領域を横断してデータやデジタルソリューションを活用したバリューチェーン全体での生産性向上を追求しています。

「既存事業の価値向上」では、顧客データや最新テクノロジーを活用して、顧客理解の高度化や既存プロダクト・サービスの開発工程・顧客接点のデジタル化を行い、新たな付加価値の創出を進めています。

「新規ビジネスの加速・開発」においては、これまでのビジネスモデルにとらわれず、「食」「医」「ヘルスサイエンス」の領域にわたって、デジタルを活用した新しいサービス立ち上げを目指しています。

こうした取り組みを通じて現在は、現場からも業務の高度化・効率化に向けたアイデアが生まれ始めるなど、DXを推進する人財の育成、組織体制の整備は着実に進んでいます。個人や組織が課題解決につながるスモールサクセスを積み上げ、より主体的にDXを推進することで当社グループとして競争優位な組織能力を獲得するとともに、新たな価値創出につなげていきたいと考えています。グループのあらゆる領域でビジネス変革に取り組み、KV2027の実現を目指します。

取り組み事例

キリンビール、SCM領域でDXを推進する「MJ(未来の需給をつくる)プロジェクト」を始動

キリンビールはブレインパッド社と手を組み、SCM業務プロセスのDXを加速させる、3カ年にわたる「MJ(未来の需給をつくる)プロジェクト」を2022年10月より始動。本プロジェクトの取り組みの第1弾として、ブレインパッド社と共同開発した「資材需給管理アプリ」の運用を2022年12月に開始しました。

  • キリンビール SCM部企画担当 田中 孝治

  • キリンビール SCM部企画担当 田中 孝治

市場環境の急速な変化に伴い、お客様の好みや価値観が多様化しています。それに対応するべく、商品の多品種化が必要になるとともに、製造や物流などの制約が増加しています。このような環境下でも将来にわたってお客様へ商品を安定的に届け続けるためには、市場の変化に迅速に対応するとともに、より強固な供給体制の構築が必要です。そのため、当社は2021年4月に「SCM部」を新設し、商品の安定供給とコストの最適化の両立を目標として掲げました。

SCM部では、過去の販売実績や直近の市場動向を踏まえた需要予測に基づいて、製造計画や資材(缶や板紙など)の調達計画を策定する業務を担っています。当社の需給業務の特徴としては、製造のための仕込みや原料・資材の調達のために、足元に加えて1〜3カ月先の需要予測を行っていますが、多品種化が進んだ現在の販売環境下では需要が読みにくい上、製造や保管、配送といった各種能力・制約を踏まえた最適な計画を作成する必要があります。そのため、業務の複雑さが増しており、既存のシステムだけでは対応し切れずに日常的に多くのオペレーションを人手で対応・調整しているのが現状です。それによって業務負荷が大きくなるだけではなく、ある程度の経験を積んだ従業員にしかできない業務が多数存在しています。従って、このままでは需給業務の維持そのものが難しくなり、将来に向けて事業継続リスクがあると考えました。

そこで2022年10⽉より始動したのがMJ(未来の需給をつくる)プロジェクトです。需給業務におけるシステムの自動化範囲を従来より拡充することで、これまで従業員が手動で対応していた業務の効率化を図り、より安定的で持続可能な需給業務の実現を目指しています。現場主導で立ち上げが行われた当プロジェクトにおいても、デジタルICT部門のメンバーが参画し、取り組みを推進・サポートしています。

このプロジェクトを推進することにより、将来にわたり商品を安定供給し続ける、盤石な業務運営体制を構築することで事業継続リスクを低減させます。また、業務の属人化を解消するとともに省力化を進め、手作業によるオペレーションに時間を費やしている現状から脱却し、より付加価値の高い業務に力点を移すことで、需給業務を担当する従業員の働きがいも向上させる狙いです。

現在は、資材需給管理アプリ「materio(マテリオ)」を開発し、2023年1月から運用を開始しています。このアプリは、対象資材に対して、確保したい在庫水準や予定納品日を基に、製造タイミングやロットなどを加味した最適な発注数量を自動で算出することができます。また、発注後の在庫推移をビジュアル化し、作業者の最終意思決定をサポートします。これにより将来的には従来人が行っていた資材需給管理の業務量を年間75%削減し、計1,400時間以上の時間創出を見込んでいます。

  • 図:資材需給管理アプリで資材の調達数量計算、在庫予測を実行 人間の最終意思決定をサポート

  • 図:資材需給管理アプリで資材の調達数量計算、在庫予測を実行 人間の最終意思決定をサポート

  • 付替:サプライヤーからの納品先工場の変更
  • 転送:キリンビール工場間における輸配送

この資材需給管理アプリをスモールサクセスとし、今後はより効果の大きい業務の変革に着手します。システムによる自動化に加え、サプライチェーン上の課題や制約などを解消することで、より大きな社会的価値・経済的価値の創出につなげます。

関連情報