水資源の取り組み
持続可能な水資源利用
地球上の生命は水に依存しており、キリングループにとっても欠かすことのできない基本的な資源です。製造設備の洗浄などにも欠かせません。気候変動の影響は主に水を媒介してもたらされると言われており、世界中で洪水、干ばつ、降雨パターンの変化が起こり、水不足や汚染なども深刻化しています。過去に何度も大きな渇水を経験しているオーストラリアに大きな事業を持っているキリングループは、早くから水リスクが国や地域ごとに、また現在と将来で異なることを認識しています。2014年以降、科学的なツールを使って水リスクを定期的・定量的に把握し、各事業所の水リスクに応じた効率的な水利用を行っています。各事業所の水リスクだけではなく原料農産物の生産地での水リスクについてもTCFD提言に基づくシナリオ分析で調査・把握し、実施可能な地域で試行的な対策も進めています。今後は、単に節水だけではなく流域全体の自然資本に及ぼす影響について把握するとともに、影響を低減できる目標設定に向けてステークホルダーとともに取り組む計画です。
主な活動
- スリランカの紅茶農園内で累計27か所(2024年末)の水源地を保全し、水源地の近隣の住民(約15,000人)対象に水の重要性や保全と流域保護に関するパンフレットを配布し意識向上に貢献
- Science Based Targets Networkが主催するコーポレートエンゲージメントプログラムに参加し、水資源に関する目標を設定するための科学的なアプローチの開発とルール作りに参画(2021年~)
- 水ストレスの非常に高いアメリカのコロラド州にあるニュー・ベルジャンにおいて、TNFDからの依頼でシナリオ分析ワークショップを実施(2023年:実施内容は、TNFDフレームワークβ版v0.4に掲載)
- 水源の森活動による生物多様性の保全や、地下水涵養などの取り組みを継続
目標
水ストレスの高い製造拠点における用水使用量原単位(ライオン)
2025年 2.4kl/kl未満(CSVコミットメント)※1
2025年 2.4kl/kl以下(非財務目標)※2
2024年 3.0kl/kl以下(非財務目標)※2
- ※1対象事業所は以下の通りです。 Tooheys Brewery,Castlemaine Perkins Brewery, James Boag Brewery, Pride
- ※2対象事業所は以下の通りです。 Tooheys Brewery,Castlemaine Perkins Brewery, James Boag Brewery
達成状況
ライオン用水原単位
目標:2.4kl/kl以下
実績:3.1kl/kl
キリングループの水リスク
キリングループでは、水を原料の1つとしている製造拠点(工場)だけではなく、調達する農産物に関しても、将来的に水リスクによる原料農産物の収量などの大きな影響があると認識しているため、製造拠点(工場)と農産物の両方の視点で水リスクを分析し、実際の水リスクに対する活動に活用しています。
農産物調達における将来の水リスク
現時点では、従来から行っている調達先の分散、紅茶葉やコーヒー豆で行っている持続可能な農園認証の取得支援、将来的には植物増殖技術の活用などにより、キリングループは物理的リスクに対する一定のレジリエンスを備えていると考えています。しかし、キリングループが「SBT1.5℃」目標、「SBTネットゼロ」目標を達成しても世界的な温暖化の影響を避けることが難しい可能性が高まってきているため、移行計画の中でさらに検討を進め、適切な適応策を盛り込んでいく予定です。現在までに実施した気候変動による主要農産物収量へのインパクトと2050年前後の農産地の水ストレスによれば、スリランカ産の紅茶葉などの生産地の水ストレスが高いことがわかっています。
気候変動による主要農産物収量へのインパクトと2050年前後の農産地の水ストレス
製造拠点(工場)における水リスク
2014年以降、科学的なツールを使って水リスクを定期的・定量的に把握し、各製造拠点(工場)の水ストレスに応じた目標を設定して効率的な水利用を行っています。現在までに実施した製造拠点(工場)における水リスク分析によれば、オーストラリアなどの製造拠点で特に水リスクが高いことが分かっています。水の目標を設定する際には、より詳細な調査や現地へのヒアリングなどを通じた水リスクやビジネスの実態を踏まえて、目標設定する製造拠点を決めています。
製造拠点水ストレス・水リスク
紅茶農園内の水源地保全活動
キリングループは、気候変動による主要農産物収量へのインパクトと2050年前後の農産地の水ストレスで水ストレスが高いことがわかったスリランカ産の紅茶葉などの生産地の活動をバリューチェーン上流の原料農産物生産地における水問題解決の第一歩として取り組みを開始しました。スリランカの紅茶農園内にある水源地の保全活動を2018年から開始し、2024年末で27カ所の保全を完了しています。水源地の近隣に住む1,750人に対して水源地保全の必要性を理解するための集合形式での研修を行い、加えて住民15,000人に水の保全と流域保護に関するパンフレットを配布して意識向上をはかっています。スリランカの高地にある紅茶農園では、急峻な斜面に茶の木が植えられている場所がたくさんあります。地層などの条件が良いところでは、雨水が地中に浸透して紅茶農園の一角で泉として湧き出ています。このような泉のことをマイクロ・ウォーターシェッドと呼びます。紅茶農園にあるマイクロ・ウォーターシェッドはスリランカ中心部の高地にあり、ほとんどの場合は沿岸部の都市に流れる河川の源流になっているため、面積はわずかですが貴重な水源地となっています。キリングループはスリランカ紅茶農園へのレインフォレスト・アライアンス認証取得支援の一環で、毎年農園マネージャーとエンゲージメントをしています。農園マネージャーとの対話の中で、水源地保全活動が停滞していることが分かりました。当時、スリランカ政府はマイクロ・ウォーターシェッドの重要性については理解し、それらを保全・管理するためのマッピング作業までは実施していました。そこで、認証取得支援先の紅茶農園と周辺地域の持続性をより高めるために、2018年からレインフォレスト・アライアンスと共に、スリランカ政府の外郭団体であるPHDT(Plantation Human Development Trust)とEWHCS(Estate Worker Housing Cooperative Societies)の協力のもと、農園内の水源地保全活動を開始しました。前回訪問した際(2024年3月)には、農園内にあるマイクロ・ウォーターシェッドへの動物の侵入を防ぎ、他の目的で使用されないようにするため、柵で囲む保全活動が進んでいるのを確認しました。今後は周囲に、その地域固有の在来種を植林する予定です。これにより、単一栽培の紅茶農園に植生の多様性を与えるとともに、集中豪雨などで山の斜面から流出した土砂が水源地に流れ込むことも防ぎます。
マイクロ・ウォーターシェッドの仕組み
スリランカ紅茶農園水源地保全実施数
教育プログラムの提供
キリングループは、対象となる水源地周辺に住む住民に対して、水の大切さやマイクロ・ウォーターシェッドがどのような機能を持っているかなどを教える教育プログラムを提供しています。一部の農園では収穫作業従事者の保育所や小学校のプログラムの中に組み込むなどの工夫もしています。当初目標の15,000人への提供を達成し、さらに拡大する予定です。
製造
水不足地域における逆浸透膜(RO)水リサイクルプラント導入
製造拠点(工場)における水リスク分析からもわかる通り、オーストラリアは水資源が豊富な日本とは異なり、慢性的な水不足の課題を抱えています。例えばニューサウスウェールズ州のシドニーにおいては、渇水リスクが高い上に工業用水など生活用水以外の水使用量が大きく、ビジネスセクターの節水が求められています。
キリングループは水不足地域における水使用量の削減を目指し、Tooheys Brewery,Castlemaine Perkins Brewery, James Boag Brewery, Prideでの用水使用量原単位目標を掲げています。またさらに取り組みを加速させるため、醸造所で使用した水を浄水し再利用できる施設(逆浸透膜(RO)水リサイクルプラント)をオーストラリアで建設・増設する目標を掲げました。水不足地域でRO水リサイクルプラントを導入することは、キリングループと同じく水に依存する社会や自然環境に対しても大きく貢献することになります。キリングループは、2024年までに、水不足地域にあるCastlemaine Perkins BreweryとTooheys Breweryで逆浸透膜(RO)水リサイクルプラントを導入しています。再利用された水は設備の洗浄などに使用されます。2024年に導入されたTooheys Breweryでは、この導入により、年間約2億7,000万Lの水が再利用され、節水に繋がります。これは108個のオリンピック水泳競技場を満たす量に相当します。さらに、720万ドルの投資で年間約70万ドル以上の水道料金が節約できます。
製造工程における管理
工場で使う水の多くは、設備や配管の洗浄・殺菌工程で使用されます。洗浄できていることを品質面で確認・保証できる体制・仕組みを整えるとともに、無駄な水を使わないように流量・流速を厳密に管理しています。その上で、用途に応じた水の再利用を積極的に推進しています。例えば、配管や設備などの洗浄工程で使った最後の「すすぎ水」は水の清澄度が比較的高いため、最初に配管を洗う工程で利用することが可能です。このように、洗浄で使った水を水質に応じた用途で繰り返し使うカスケード利用を行っています。回収できる水の量と使用する水の量のバランスやタイミングを合わせるなど、確実に洗浄できていることを保証するためには設備を使いこなすノウハウが必要です。キリングループでは、このようなノウハウを共有・蓄積し、高いレベルの節水を実現しています。
水源の森活動
工場の水源地を守る活動である「水源の森活動」は、1999年に業界に先駆けてキリンビール横浜工場の水源地である神奈川県丹沢地区の森から始まり、現在も日本全国11カ所で取り組んでいます。水源地の森林を管理する自治体や関係先との中長期の協定をベースとして、植樹、下草刈りや枝打ち、間伐などを進め、現在では多くの森が明るく茂る森になってきています。一部の場所では、希望するお客様にも活動に参加していただいています。
地下水涵養
「『世界文化遺産』を目指す阿蘇エリア草原再生プロジェクト」では、阿蘇の草原景観保全に向けた「野焼き再開支援」を実施しています。豊富な地下水を涵養する阿蘇の広大な草原を守ることは、メルシャン八代工場の原料として使用する水を守ることにつながります。2023年は八代工場から3名がこの活動に参加しました。草原の維持は、地下水を育むと同時に絶滅危惧種を含む多様な動植物の生息場所を守ることにつながります。
流域・海岸清掃活動
キリングループの各工場では、行政やNGOと協力して周辺の河川における清掃活動を中心とした環境保全活動を行っています。キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャン、協和キリン、小岩井乳業などの各工場では、取水河川や近隣河川などを中心に、地域の環境美化および環境保全活動を行っています。協和発酵バイオ山口事業所では、従業員が薬液やブドウ糖液などを荷揚げする港湾施設である百間沖の清掃活動をしています。
水資源のグラフ
指標と目標
ライオン(オセアニア州)の用水使用量と原単位
(用水使用料/生産量)
グループ全体の用水使用量と原単位
(用水使用料/売上収益)
グループ全体の水の循環的利用量と循環的利用率
(循環的利用量/(循環的利用量))