トップメッセージ
キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長 磯崎 功典
環境の課題は、健康の課題とも深く関わっています。2018年から開示を始めたTCFDのシナリオ分析では、気候変動が私たちの重要な農産物や水に大きな影響を与えるとともに、温暖化によって感染症や熱中症などが増加することが分かっています。中でも心配されるのが、「デング熱」の感染拡大です。媒介蚊であるヒトスジシマカは、1948年頃には栃木県が北限であったものが、温暖化に伴い現在では青森県でも生息が確認されています。
キリングループは、長年東南アジアで基礎研究を重ね、2021年9月にはマレーシアのマラヤ大学との共同臨床研究で、「乳酸菌L.ラクティス プラズマ」によるデング熱様症状に対する効果を確認しました。さまざまな熱帯感染症に対する効果について国内外の大学などの研究機関と連携して共同研究を進め、気候変動の適応策としても貢献していきたいと考えています。
当社が行ったお客様調査では、新型コロナウイルスの感染拡大で最も高まった健康意識は「免疫への関心」です。このような社会的な要請にキリングループのヘルスサイエンス事業領域で応えていくことが、社会的価値と経済的価値を両立するCSVの前進につながっていくと考えています。今ESGのテーマは、気候変動から人や事業に生態系サービスを与えてくれる自然資本に拡大しつつあります。「乳酸菌L.ラクティス プラズマ」によるさまざまな効果は、「生態系サービス」そのものです。2013年に「持続可能な生物資源利用行動計画」を策定し、スリランカの紅茶農園への持続可能な農園認証取得支援や紙容器へのFSC®認証紙利用を進めてきた私たちは、この分野でも社会の期待に応えることでESGの評価をさらに高めていきたいと考えています。
気候変動の緩和策であるキリングループのGHG排出量削減目標は、国際的イニシアチブであるScience Based Targetsから「科学的根拠に基づく目標」として認定をされています。今後、自然資本についても科学的な目標設定や開示ができるよう、Science Based Targets Networkが主催するコーポレートエンゲージメントプログラムや「自然関連財務情報開示タスクフォース」(TNFD)の“The TNFD Forum”に参画し、取り組みを開始しています。
キリングループは、2019年に“世界のCSV先進企業になる”と宣言しました。感染症などの健康課題、コミュニティの課題と、これらに大きな影響を与える気候変動や自然資本といった環境課題などさまざまな社会課題を解決し、リスクを成長機会に変えることで、新たな市場と価値を創造し、持続的な成長につなげていきます。世界の人々が豊かな自然に囲まれ、心も身体もすこやかに暮らせるよう、「食と健康の新たなよろこび」を生み出すことでコーポレートスローガンである「よろこびがつなぐ世界へ」の実現を目指してまいります。
担当役員メッセージ
キリンホールディングス株式会社 常務執行役員 (CSV戦略担当、 グループ環境総括責任者) 溝内 良輔
2020年に発表した「キリングループ環境ビジョン2050」の最も重要なメッセージである「ポジティブインパクトで、豊かな地球を」の背景にあるのは、「生への畏敬」というキリンの醸造哲学です。麦芽もホップも水も、ビールの原料は全てが自然の恵みであり、麦汁に含まれる糖をアルコールと炭酸に分解し、ビールの香味を決める酵母も微生物。おいしいビールを製造するには、“生”と向き合い続け、生命科学を究める必要がある、という考え方です。「生への畏敬」は、1952年にノーベル平和賞を受賞されたシュバイツァー博士の思想であり、「われは、生きんとする生命にとりかこまれた、生きんとする生命である」という、人々の多様性や自然環境を尊重する教えです。
その“生”が拠って立つ自然は、“場所”に依存しています。ワインは「テロワール」を重視します。ブドウの採れる土地の個性がワインの味を決める重要な要素になるためです。テロワールは、ワインだけではなく、紅茶やコーヒーでも使うことがあります。
「キリン 午後の紅茶」はスリランカの茶葉の個性が生かされていますし、ホップもまた生産地によって個性が異なります。農産物を特徴づける特定の場所の自然資本が棄損すれば、代替は効きません。
場所に依存する生物資源と水資源に大きな影響を与えるのが、気候変動問題です。GHGはどこで排出しても地球温暖化につながるグローバルな課題ですが、それによって棄損されるのはローカルに存在する農産物と水資源です。私たちは気候変動と自然資本が互いに強く関連していることを念頭に取り組んできており、TCFDのシナリオ分析によってこの関係性をより深く理解することができました。
スリランカの紅茶農園では、生態系を守り肥沃な土壌が流出しないよう地を這う草を植えることを教えています。これは気候変動の影響で頻発する集中豪雨での土砂崩れを防ぐことにもつながります。水ストレスの高いオーストラリアでは高度用水処理設備を導入していますが、比較的水ストレスの低い日本ではエネルギーを消費する設備導入に代えてカスケード利用などの創意工夫で対応しています。紙容器がGHGを吸収してくれる貴重な森林を破壊しないようにFSC認証紙の採用を進め、プラスチック問題が温暖化や生態系に影響を与えることを止めるために、“プラスチックが循環し続ける社会”の実現に向けて取り組みを進めています。
このように「キリングループ環境ビジョン2050」で定めた4つの課題、「生物資源」「水資源」「容器包装」「気候変動」は、決して独立した課題ではなく、相互に関連しています。この関連した課題を統合的(holistic)に解決しようとするのが、キリンのアプローチです。NGOや他企業とのコンソーシアムや地域の方々との協働、さらにはグローバルなイニシアチブへの参画も、統合的アプローチの一環です。
今後も気候変動や自然資本、サーキュラーエコノミーの課題を統合的に捉え、「生物資源」「水資源」では原料生産地や事業展開地域の資源保全に貢献し、「容器包装」では社内開発、「気候変動」では再生可能エネルギーの追加性を重視し、自社の領域を超えて社会にポジティブインパクトを創り出していきます。
※ 上記情報は「キリングループ環境報告書2022」の開示内容を転載したものです。