シナリオ分析(TCFD)

TCFD提言にもとづく開示

キリングループでは、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に公表した提言を踏まえ、気候変動問題が社会と企業に与える影響と戦略のレジリエンスを評価し、概ね5年で提言に準拠した開示ができるように取り組みを進めてきました。2018年に開示を開始し、2019年の評価結果は、「環境ビジョン2050」への重要なインプットとしています。
尚、キリングループは、2018年12月に日本の食品会社として初めてTCFD提言への賛同を表明しています。

情報開示のスケジュール

2018年
  • 農産物への影響評価
2019年
  • 農産物影響の詳細調査・評価・対策の掲示
  • 農産物以外の物理的リスク評価
  • グループCSV委員会での経営層の議論
2020年
  • 財務インパクト評価
  • 環境ビジョン2050のレジリエンス評価
  • 環境ビジョン2050策定
  • 本格的な経営層の議論
2021年
  • 継続した深堀調査
  • 医薬事業で開示開始
  • 経営会議等への本格的組み込み
2022年
  • 継続した深堀調査
  • グループ全体への展開・開示
  • 経営戦略との一体化

ガバナンス

キリングループでは、グループ各社がCSV経営を積極的・自主的に推進していくために、キリンホールディングスの全役員と主な事業会社の社長が出席する「グループCSV委員会」を原則として年1回開催し、気候変動問題についても議題としています。2019年には、シナリオ分析結果に基づき気候変動関連のリスクと機会について経営層で積極的な議論を行い、それを受けてSCM担当役員をオーナーとする環境戦略プロジェクトを発足させています。「環境ビジョン2050」も、このプロジェクトの中で検討・立案し、経営戦略会議での議論、取締役会の審議を経て策定されています。

戦略

キリングループは、2013年に2050年を見据えた長期戦略「キリングループ 長期環境ビジョン」を策定し、その実現に向けて事業を展開してきました。しかし、パリ協定を起点とした気候変動に関する各種国際イニシアティブの発足、プラスチックによる海洋汚染問題の顕在化など、環境に対する世界の動向は大きく変化してきています。また、2018年、2019年に実施したシナリオ分析では、気候変動により重要な原料である農産物の収量減、農産物生産地の水ストレス・洪水リスクの増大などによる大きな影響が明確になるとともに、緩和策や適応策を強化することで、このような影響を低減して機会を獲得できる可能性も見えてきました。

そこで、従来の戦略を見直し、社会と企業のレジリエンスを強化し、自社の枠組みを超えて社会にポジティブなインパクトを与えることを目指す「環境ビジョン2050」を策定し、2020年2月10日に発表しました。「環境ビジョン2050」は、「CSVパーパス」の中でも重要課題として位置づけ、CSV経営の中に組み込んでいます。

リスク管理

キリングループでは、経営目標の達成や企業の継続性に大きな影響を与えるリスクを的確に認識し、確実な対応を図るために、リスクマネジメントを推進し体制を整備しています。特に、新たな戦略や取り組みに伴い発生するリスクや重大な外部環境の変化といったリスクを、重点として設定しています。
気候変動関連のリスクも含めて、重要リスクはグループ各社がキリングループのリスクマネジメント方針に基づいて抽出・検討します。これらをキリンホールディングスの社内取締役と執行役員で構成されたキリングループリスク・コンプライアンス委員会の事務局で集約・精査し、影響度が大きく発生確率が高いリスクやグループ共通リスクを同委員会で審議の上、グループの重要リスクとして管理していきます。

一方で、気候変動の影響と思われる大規模な自然災害の発生などを見ても、影響度と発生確率でリスクの重要度を判断する従来型のリスク管理手法だけでは十分とは言えません。起こる可能性は分からないものの、起きた場合に事業に極めて大きな影響を与えるリスクについて、シナリオを設定して評価する新しいリスクマネジメントを定着させていきたいと考えています。

指標と目標

2020年2月10日に発表した「環境ビジョン2050」では、キリングループの気候変動関連問題に関わる目標を、従来に比べて大きくストレッチしました。
緩和策である温室効果ガス排出量の削減については、2050年までにバリューチェーン全体でネットゼロとする目標を設定しました。適応策としては、持続可能な原料農産物の育種・展開および調達、原料として使用する水を持続可能にする施策などを掲げています。 尚、中期的なKPIについては、今後早急にCSVコミットメントとして数値目標化し、ロードマップを策定する予定です。

目標

Scope1とScope2合計排出量の目標

Scope3排出量の目標

  • SBTiに承認された目標と同じ範囲で算出しています。

シナリオ分析

キリングループでは、2017年にTCFDの最終提言が発表された直後から検討を開始し、2018年6月末には、いち早く「キリングループ環境報告書2018」でシナリオ分析の結果も含めてTCFD提言に沿った開示を試行しました。その後も、継続的に提言に準拠した開示ができるように取り組みを進めています。

2018年の分析結果

2018年は、IPCCの代表的濃度経路(Representation Concentration Pathways: RCP)をメインに、共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways: SSP)を補助的に利用して、温度シナリオと社会経済シナリオを組み合わせた3つのシナリオにおいて、農産物収量へのインパクトを調査・評価しました。その結果、事業にとって重要な原料である農産物が、気候変動の大きな影響を受ける可能性を改めて確認することができました。
この調査を開示した直後の2018年7月に、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)が発生し、西日本の広い地域が大きな被害を受け、鉄道網も寸断されました。この結果、GHG排出量削減とトラック運転手不足対応を目的として積極的なモーダルシフトを推進してきたキリンビレッジでは、最盛期に重なったこともあって製品の配送に大きな影響が生じました。2018年は、9月に北海道胆振東部地震によるブラックアウト(全域停電)が発生してキリンビール北海道千歳工場が製造停止となり、また海洋プラスチック問題も大きくクローズアップされた年となりました。

これらのリスクは、従来のリスクマネジメントでもリストアップされていたものの、影響度は大きいものの発生確率は低いと判断され、一部でリスクの低減に取り組んでいたものもありましたが、多くは「リスク保有」の扱いとなっていました。2018年に多発した自然災害や環境問題の発現により、起こる可能性が低くても、起きた場合に事業に極めて大きな影響を与えるリスクについてシナリオを設定して評価する新しいリスクマネジメントの有効性を改めて認識することになりました。尚、西日本豪雨の経験を活かし、キリングループではすぐに同様の災害が発生した場合のマニュアルを整備して運用を開始したことで、2019年10月の台風15号(令和元年房総半島台風)、19号(令和元年東日本台風)では大きな影響を避けることができています。

2019年の分析結果

シナリオ分析の有効性を再認識したことを受けて、2019年は2013年に策定した長期戦略「キリングループ長期環境ビジョン」のレジリエンスを評価することを目的として、さらに詳しい分析を行いました。
具体的には、25を超える文献を調査して、2018年に設定したグループシナリオ1(2℃シナリオ、SSP1、持続可能な発展)とグループシナリオ3(4℃シナリオ、SSP3、望ましくない世界)を用いて、主な調達先国別に2050年と2100年時点の気候変動の影響を分析しました。

この他、農産物生産地の水ストレス・水リスク調査、製造拠点・物流拠点での水リスク調査、カーボンプライシングの影響評価を行いました。下の表・図がその抜粋となりますが、詳しい分析結果については「キリングループ環境報告書2019」のP14~16の参照をお願いします。シナリオ分析の結果、農産物や水資源などへの大きな影響がさらに明確になりましたが、一方で気候変動の緩和策や適応策を強化することで、このような影響を低減し、機会を獲得できる可能性も見えてきました。以上の分析結果は、2020年2月10日に発表した社会と企業のレジリエンス強化へ向けた新たなビジョン「キリングループ環境ビジョン2050」への重要なインプット情報となっています。

主要農産物の収量/栽培適地に対する気候変動インパクト(2019年開示内容)

  • 主要農産物の収量/栽培適地に対する気候変動インパクト(2019年開示内容)

2018年西日本豪雨による鉄道網の寸断状況

  • 2018年西日本豪雨による鉄道網の寸断状況

カーボンプライシングの影響評価(2019年開示内容抜粋)

  • カーボンプライシングの影響評価(2019年開示内容抜粋)

2020年の分析結果

2018年と2019年の分析結果をベースに、財務的影響を試算しました。いずれも、社会と企業に与えるインパクトを可視化するために、設定されたシナリオの条件での試算結果であることをご留意ください。尚、気候変動課題ではありませんが、あわせて海洋プラスチック問題についても試算しています。

ネガティブインパクト

農産物の収量減少による影響では、国内の酒類・飲料事業の重要な原料である大麦・ホップ・紅茶葉・ワイン用ぶどう果汁について、公開されている論文の算出条件を使ってコスト影響を試算したところ、グループシナリオ1(2℃シナリオ、SSP1、持続可能な発展)に比べて、グループシナリオ3(4℃シナリオ)では、原材料のコストインパクトが約7倍になるという結果になりました。試算結果は、農産物収量減による財務的影響を抑えるためには、温度上昇の緩和についても高いレベルでの対応が必要であることを示しています。

自然災害に伴う水リスクや水ストレス、感染症による操業および物流への影響についての試算では適切な知見がないことから、それぞれのシナリオにおいて過去の事例などをもとに仮定をおき、それが現実となった場合についての試算を行いました。

水リスクについては、グループシナリオ3(4℃シナリオ)で東日本大震災により被災したキリンビール仙台工場と同等の被害が発生する仮定で、洪水によるモーダルシフトへの影響では同シナリオで過去に発生したのと同様の被害が発生する仮定で試算しました。感染症による操業への影響については、同シナリオでビール工場が最盛期に製造停止なる仮定で試算しました。

事業へのネガティブな影響

  • 事業へのネガティブな影響のグラフ

水ストレスでは、オーストラリアで水ストレスの大きい工場が最盛期に操業停止になる仮定で試算しました。
グループシナリオ1(2℃シナリオ)とグループシナリオ3の影響度の違いについても適切な知見がないため、グループシナリオ1ではグループシナリオ3の3分の1程度の影響に留まると仮定して試算しています。

これらに加えて、2019年に試算したカーボンプライシングの影響、および公開されている論文から国内清涼飲料での販売シェアを使って海洋プラスチック問題の外部費用を試算した結果を示したものが上のグラフになります。

縦軸にはリスクが発現した場合に社会や企業が元の状態に戻ることの難しさを、横軸には社会に与えるネガティブインパクトの大きさを、円の大きさは大よそのキリングループに与える財務的インパクトの大きさを示しています。試算の結果、それぞれのコストインパクトは事業収益の1~8%程度となりました。ただし、農産物の収量減少については継続的に影響を受け続けるため、よりインパクトが大きいと言えます。また、気候変動による感染症の拡大の影響については、2020年に感染が拡大している新型コロナウイルスによる影響の結果によよって、試算方法を変更する必要がでてくると想定しています。

ポジティブインパクト

気候変動による機会については、「感染症によるインパクト」「熱中症によるインパクト」「省エネ・再エネ投資によるコストダウン」について試算しました。
気候変動に伴う感染症や熱中症の影響は、免疫の司令塔を直接活性化するプラズマ乳酸菌(L. lactis strain Plasma)や熱中症対策の商品である「キリン 世界のKitchenから ソルティライチ」などの市場拡大につながる可能性があります。
WHOによる気候変動と健康影響に関するシナリオ※4をベースに、感染症の影響について分析を行った結果は下記の表の通りです。

2050年 キリングループシナリオ3(4℃シナリオ)におけるリスクに晒される人口の増加率
項目マラリアデング熱
概要 結核、エイズと並ぶ世界の3大感染症のひとつとされる。主な症状は、発熱、貧血、脾腫。 デングウイルスが感染しておこる急性の熱性感染症。主な症状は発熱、頭痛、筋肉痛や皮膚の発疹など。
発生状況 亜熱帯・熱帯地域を中心に感染者数が多い。罹患者が世界中で年間約2.2億人、年間約推計43万5,000人が死亡との報告もある。媒介蚊ハマダラカは日本でも生息。日本でも発症事例あり。 熱帯や亜熱帯の全域で流行しており、東南アジア、南アジア、中南米で患者の報告が多く、その他、アフリカ、オーストラリア、南太平洋の島でも発生がある。近年日本でも発症例がみられる。主な媒介蚊はネッタイシマカ(日本には常在しない)だが、本州以南生息のヒトスジシマカも媒介可能。
分析結果現在からのリスク人口の増加率 ※1 気候変動+
GDPを考慮
気候変動のみ考慮 ネッタイシマカ ヒトスジシマカ
アジア太平洋高所得国 ※2 -4.0% 4.0% 0.4% -1.2%
東南アジア ※3 -76.8% 73.2% 0.4% -1.1%
オーストラリア -50.0% 0.0% 51.9% 27.1%
  1. マラリアでは、基準年(1961~1990年)から見た2050年でのリスク人口の増加率を、デング熱では現在から見た2050年でのリスク人口率を表しています。いずれも4℃で算出。
  2. 日本、韓国、シンガポール、ブルネイ
  3. ASEAN諸国、ミャンマー、ベトナムなど

熱中症の影響は、国立環境研究所の気候変動の観測・予測データ※5を使って検討しました。日本における熱関連超過死亡数は、RCP8.5シナリオ(グループシナリオ3の4℃シナリオと同等)では、2080~2100年には基準期間とされている1981~2000年の4倍弱~10倍以上とされています。今回の試算では、気温との関連性が高いと考えられる日本での熱中症救急搬送者数で試算しています。

2050年のRCP8.5シナリオでは、熱中症搬送者数は基準年(1981~2000年)のおよそ2~4倍になると見込まれています。この結果からキリングループシナリオ3(4℃シナリオ)では、熱中症対策飲料市場がこれと連動すると仮定し、940億円~1,880億円程度の国内市場規模の拡大が見込まれれると試算しました。

「省エネ・再エネ投資によるコストダウン」については、2019年6月25日のリリース「GHG排出量の削減に向けた取り組みを加速 さらなる省エネルギーとエネルギーの電力へのシフト」で開示した10億円規模のエネルギーコスト削減を反映させました。

事業機会を獲得できる可能性

  • 事業機会を獲得できる可能性のグラフ

これらの結果を示したのが上記のグラフです。縦軸には施策がどの程度社会のレジリエンス向上に寄与しているかを、横軸にはお客様や地域など社会へのポジティブインパクトの大きさを、円の大きさは大よそのキリングループに与える財務的インパクトの大きさを示しています。

  1. World Health Organization (2014) Quantitative risk assessment of the effects of climate change on selected causes of death, 2030s and 2050s.
    https://apps.who.int/iris/handle/10665/134014
  2. S-8温暖化影響・適応研究プロジェクトチーム 2014 報告書
    https://www.nies.go.jp/s8_project/scenariodata2.html#no3

長期環境戦略のレジリエンス評価

以上のシナリオ分析を受けて、2013年に発表した長期戦略「キリングループ長期環境ビジョン」のレジリエンス評価を行い、その結果を2020年に発表した「キリングループ環境ビジョン2050」に反映しています

生物資源

2013年に発表した「キリングループ長期環境ビジョン」では2050年の到達目標を「生物資源を持続可能な形で使用している」こととし、CSVコミットメントでは、FSCやRSPOへの対応に加えて、スリランカ紅茶農園へのレインフォレスト・アライアンス認証取得支援を掲げて取り組みを進めてきました。

2018年~2019年におけるシナリオ分析の結果では、グループシナリオ1、グループシナリオ3のいずれにおいても、大麦やホップの大幅な収量減が予想されました。ワイン用のブドウについては、現状の生産地で大きな収量減が予想される場所がある一方で、新たに収量増が予想される生産地があることが分かりました。紅茶葉についても影響がある可能性が分かりました。これら主要原料の収量変化により想定される調達コスト増は、シナリオ1で5%程度、シナリオ3では30%を超える結果となりましたが、温暖化が進む場合には状況を回復することが困難です。
これらの課題に対しては、大麦に依存しない代替糖を用いる発泡酒や新ジャンルでの技術力や実績に加えて、植物大量増殖技術がキリングループの大きな強みになると判断しています。この技術は、温暖化対応の農産物が開発された場合に、これを短期間に増やして作付面積の拡大に寄与できる可能性があります。

レインフォレスト・アライアンス
認証取得支援での社会的インパクト

また、スリランカで2013年より取り組んでいる持続可能な農園認証取得支援の取り組みは、認証取得支援を通じて調達先の農産物生産地全体の持続可能性向上を目指していることに大きな特徴があります。温暖化の影響が生産地全体の農産物収量減につながることを考えれば、単に認証品を調達するだけに留まる活動と比べて、社会と企業のレジリエンスをより強化する取り組みだと言えます。

上記のグラフは、スリランカでレインフォレスト・アライアンス認証を取得したある農園で、その社会的インパクトを試算した結果です。この農園は、2013年からトレーニングを開始し、2014年に認証を取得しています。グラフからは、認証取得とともに単位茶葉重量当たりの利益と農園労働者の給料が上昇するとともに、農園労働者の疾病率も下がっていることが分かります。特定の農園のデータですが、認証取得支援が、農園と農園労働者に対して財務的にも社会的にもポジティブなインパクトを与えて、原料生産地をより持続可能にしていると言えそうです。

以上より、「長期環境ビジョン」での取り組みには一定のレジリエンスがあることが確認できました。一方で、さらにレジリエンスを高め、社会にポジティブなインパクトを与えるためには、強みである植物大量増殖技術での貢献、「長期環境ビジョン」発表後に加えたKPIであるフードウェイスト削減の取り組み、およびキリングループの持続可能な調達に貢献するだけではなく農業生産地へポジティブな社会インパクトを与える持続可能な農園認証取得支援の取り組みについても、ビジョンに掲げて戦略的に取り組む必要があると判断しました。これらは、「環境ビジョン2050」の「持続可能な原料農産物の育種・展開および調達を行います」や「農園に寄り添い原料生産地を持続可能にします」という目標として反映しています。

水資源

2013年に発表した「キリングループ長期環境ビジョン」では2050年の到達目標を「地域と共に、永続的に水源を使用します」とし、この目標に向けて様々な調査や取り組みを行ってきました。

製造拠点の水リスクの把握に向けては、2014年、2017年の2度にわたってWRI Aqueductなどのツールと行政が公開している情報などをもとに水ストレス・水リスク・水質汚濁の3点について詳細な調査を行いました。その結果、日本とミャンマーでは大きな水ストレスは見られませんでしたが、オーストラリアでは将来に渡って深刻な水不足が続くという結果が出ました。さらに、2019年のシナリオ分析では、グループシナリオ3をもとに2040年前後で評価し、多くの原料農産物生産地で水ストレス・水リスクが高まるという結果となりました。

日本においては、1999年より業界に先駆けて製造拠点流域の水源の森活動を継続的に行うとともに、ビール工場では原単位で50%(1990年比)近い用水削減も実現してきました。オーストラリアでも非常に高いレベルで用水削減を行ってきています。

さらに、農産物生産地での水資源対応として、2018年よりスリランカの紅茶農園内にある水源地5か所を目標に保全を開始し、周辺住民約15,000人を目標に水源地を守らなければならない理由など水の大切さを教える教育プログラムを実施しています。

一方で、オーストラリア各地では昨年、一昨年と深刻な水不足に見舞われ、日本でも2018年の西日本豪雨によって物流網が大きな影響を受けました。紅茶葉の原料生産地スリランカでも、2017年の記録的な豪雨により、土砂崩れと都市部を襲った大規模な洪水によって多くの方が亡くなり、調達先である紅茶農園の一部も深刻な被害を受けるなど、気候変動によると思われる渇水や豪雨などによる自然災害は各地で常態化しつつあります。
このような状況を受けて、さらにレジリエンスを向上させるためには、自然災害に対する物流網への影響低減対策や原料生産地での水資源保全などの、より具体的な取り組みについてもビジョンに掲げて戦略的に取り組む必要があると判断しました。これらは、「環境ビジョン2050」の「原料として使用する水を持続可能な状態にします」や「事業拠点の流域特性に応じた水の課題を解決します」という目標として反映しています。

気候変動

2013年に発表した「キリングループ長期環境ビジョン」では、「つないでくれる人たちと共に、バリューチェーンのCO2排出量を地球の吸収量に抑えます」とし、KPIとしては2050年に1990年比で、バリューチェーン全体のGHG排出量を半減する目標を掲げました。CSVコミットメントでは、Science Based Targets(SBT)イニシアティブより日本の食品メーカーとして初めて承認されたキリングループ全体の削減目標(2015年比2030年にScope1+2で30%減、Scope3で30%減)を設定し、達成に向けて各事業会社で順調にGHG排出量を削減してきました。

2018年、2019年のシナリオ分析では、気候変動によって生物資源や水資源が大きな影響を受け、キリングループにもネガティブな財務影響を与えることが明らかになっています。温暖化が進むと気温を元に戻すことは困難であり、影響が継続してしまいます。生物資源と水資源での「適応」で財務影響を低減するだけではなく、積極的に「緩和」にも貢献する必要があります。一方で、2020年のシナリオ分析では、再エネ投資による将来的なコストダウンや、気候変動による感染症・熱中症による健康食品関連の事業拡大も期待できそうであることが分かってきました。

以上より、温暖化の「緩和」に貢献するためにはGHG排出量削減でさらにストレッチした目標設定と取り組みが必要であり、気候変動における事業機会の可能性を広げ、社会とお客様のキリングループへの信頼を確かなものにするために脱炭素社会をリードする必要があると判断しました。
これらは、「環境ビジョン2050」の「バリューチェーン全体での温室効果ガス排出量をネットゼロにします」や「脱炭素社会構築に向けてリードしていきます」という目標として反映しています。

バリューチェーン全体でのGHG排出量の推移
GHG排出量中期削減目標に対する進捗

Scope1とScope2合計排出量

Scope3排出量

  • SBTiに承認された目標と同じ範囲で算出しています。

昨年のシナリオ分析では、従来の「長期環境ビジョン」が目指す姿や目標、取り組みの方向性が間違っていないこと、一定のレジリエンスがあることを確認しました。しかし、気候変動問題や海洋プラスチック問題など環境を取り巻く状況が「長期環境ビジョン」策定当時と大きく変わり、企業責任を持つべき領域も大きく広がってきています。また、シナリオ分析の結果は社会と企業の課題が相互に複合的に関連しており、環境と経済の単純な二項対立を乗り越えて社会と事業の両方の持続可能性を目指す必要があることを示しています。

このような背景を受けて、従来の長期戦略から大きく目標をストレッチさせる形で2020年に「環境ビジョン2050」を策定しました。「環境ビジョン2050」実現への取り組みにより、シナリオ分析で明らかになったリスクと財務インパクトを最小化し、さらに社会と事業にポジティブなインパクトを与えることでレジリエンスを強化し、持続的に事業を発展させることが可能であると考えています。尚、具体的な成果指標は今後順次CSVコミットメントの中で設定していく予定にしています。