CSV戦略担当役員メッセージ

ヘルスサイエンス事業の成長と先進的な非財務情報開示によって、
「世界のCSV先進企業」を実現

キリンホールディングス株式会社
常務執行役員
溝内 良輔

免疫領域で成果を獲得、引き続きCSVパーパスの実現を目指していく

――2019-2021年中期経営計画(2019年中計)のCSV経営について振り返りをお願いいたします。

キリングループが掲げる「CSVパーパス」の一つ「健康」において、乳酸菌L.ラクティス プラズマ(以下、プラズマ乳酸菌)を配合した商品が免疫機能で日本初の機能性表示食品として届出が受理(2020年9月)されたことは、歴史的な出来事でした。これは、臨床研究に用いられる無作為化比較試験(※)を導入するなど、科学的根拠に基づく研究開発の成果と捉えています。

  • 評価の偏りを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法

これまで多くの識者がグローバルリスクの一つとして「感染症」を挙げておきながら、具体的な対策はほとんど進められず、新型コロナウイルス感染症拡大でリスクが顕在化することになってしまいました。今後も地球温暖化が進むにつれ、氷河融解によって未知の病原体が出現したり、熱帯病といわれていたものが温帯地域でも広まるなど、世界はさまざまな感染症のリスクにさらされると予想されます。

こうした中、当社グループはプラズマ乳酸菌を軸に、新たな成長機会を創出できると考えています。マレーシア・マラヤ大学との共同研究においては、プラズマ乳酸菌を2カ月にわたって摂取することで、「デング熱」の諸症状の累積発症日数を有意に低下させる効果が確認されました。また、ベトナムの小学1~3年生の児童1,000名を対象に同じくプラズマ乳酸菌の継続摂取を行ってもらったところ、摂取者は風邪に起因する発熱などの感冒症状が減少しました。プラズマ乳酸菌は世界的にも非常に競争力の高い素材であり、これを世界に向けて拡大していくための道筋が見通せたことは、2019年中計における最大の成果だったと考えています。

――2022-2024年中期経営計画(2022年中計)のCSV戦略のポイントをお聞かせください。

新たな2022年中計の策定にあたり、当社グループとして時代の環境変化に対応するため、「グループ・マテリアリティ・マトリックス(GMM)」を更新しました。特に「環境」「アルコール関連問題への対応」「人権の尊重」のマテリアリティは一層高まったと認識しています。これに基づき、各事業会社はCSVを基軸とした事業戦略を実行していきます。 

2022年中計では2019年中計と同様、「CSVパーパス」として、「酒類メーカーとしての責任」を果たし、「健康」「コミュニティ」「環境」という社会課題に取り組んでいきます。

中でも、「健康」の肝となるのがヘルスサイエンス事業のポートフォリオ拡大であり、特に免疫分野における成功は必須と考えています。ポストバイオティクス(※)のプラズマ乳酸菌は熱加工が可能で、輸送・保管時における冷蔵設備の整備も不要という、エコで取り扱いやすい素材です。こうした展開性が高く評価され、国内外の多くの企業様から引き合いをいただいています。当社グループの商品として発売するだけにとどまらず、菌体の外販にも力を入れ、プラズマ乳酸菌配合商品のさらなる普及に向けて取り組みを続けていきます。

  • 生きた状態で作用する菌「プロバイオティクス」(生菌)に対し、不活性化しても作用する菌(死菌)。近年の研究では、死菌でも作用することが分かっている

「酒類メーカーとしての責任」については、本年、世界保健機構(WHO)がGAAP(Global Alcohol Action Plan)で「有害飲酒」の低減目標を10%から20%に引き上げるなど、規制の強化が進んでいます。そうした中、ビール事業を祖業とする当社グループとしては「緩和策」と「適応策」を打っていきます。「緩和策」では、低アルコールやノンアルコール商品の拡充によってアルコール関連問題の軽減を図ります。「適応策」としては酒類以外のポートフォリオを拡大し、医薬事業を成長させるとともにヘルスサイエンス事業を育成していきます。

世界的にアルコールに対する風当たりは強くなっていますが、適正に消費いただければお酒は「コミュニティ」の形成にも大切な役割を果たせると信じています。人と人とのつながりによって形成される社会関係資本(Social Capital)は社会や個人にとって必要不可欠なものであり、次の世代へも連綿と受け継いでいかなければなりません。コロナ禍において社会的孤独・孤立の問題が深刻化していることも踏まえ、CSVパーパスにおける「コミュニティ」を、地域社会も含めた人と人とのつながりの場全て、と再定義しました。私たちは、アルコールのリスク対策に正面から取り組みながらお酒が生み出すプラスの価値も生かし、「コミュニティ」の発展に貢献していきます。

「環境」への取り組みとしては、当社グループの強みであるエンジニアリング力を生かし、中長期的な損益中立(※)で自社で排出するGHG排出量を2019年比で2030年までに半減するとともに、同目標期間中にScope3を30%削減します。また2040年までに、使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指しています。

  • 損益中立:コスト削減効果の高い省エネ施策を早期に実施し、創出する利益の範囲内で再生可能エネルギーの調達を行うこと

非財務情報の開示にいち早く取り組み、産業界をリードする

――外部環境変化の一つに「非財務情報の開示要請の高まり」があります。キリングループとして、今後どのように取り組んでいくのかお聞かせください。

今は、これまで任意開示だった非財務情報が制度開示へと移行する、大きな流れの中にあると捉えています。当社グループはこれまでも、非財務情報の開示を積極的に行ってきました。2022年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が実施した「優れたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)開示」調査において、当社は運用機関から選定された27社中で最高評価をいただいています。当社グループとしては、この度の評価に恥じないよう、新しいTCFDガイダンスやIFRS財団によるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準への対応で産業界をリードしていきたいと思っています。2019年中計から取り組んできた非財務目標と役員報酬の連動についても、経済的価値の創出にしっかりとつながるよう、また投資家の皆さまが戦略の進捗をモニタリングしやすいよう、非財務目標を価値創造モデルによりフィットしたものへと大幅に変更しました。

ヘルスサイエンス事業の成長と
プラスチックが循環し続ける社会の構築で「世界のCSV先進企業」へ

――長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)で掲げる「世界のCSV先進企業」に向けて、どのように取り組んでいくか、お考えをお聞かせください。

当社グループは食から医、そしてヘルスサイエンス領域にいたる幅広い事業分野において成長を続ける、世界に類を見ない企業です。祖業のビール事業に始まり、そこで磨き上げた発酵・バイオテクノロジーを生かして1980年代に医薬事業へ参入。くる病薬のクリースビータや、アトピー性皮膚炎の治療薬として期待されるKHK4083などのファースト・イン・クラスの医薬品を開発してきました。そして今度は、この食と医双方の領域で築き上げた発酵・バイオテクノロジーを生かし、ヘルスサイエンス領域で世界の皆さまの健康に貢献するとともに企業の持続的成長を果たしたいと考えております。この戦略に期待を寄せてくださっている多くの方に、免疫の分野でできるだけ早く結果をお示しすることが喫緊の課題であると認識しています

環境面においては、「プラスチックが循環し続ける社会」を実現していきます。当社グループでは、三菱ケミカルとの共同研究でPETボトルのケミカルリサイクルの商業化に注力しています。従来のメカニカルリサイクルは原料が限られ、リサイクル回数にも限界がありました。しかし、分子レベルの分解、再資源化を実現するケミカルリサイクルであれば、プラスチックのリサイクル率を飛躍的に向上させることができます。また、単に新しい技術を開発するだけでなく、プラスチックごみを回収する仕組みづくりにも挑み、いまだ世界に例のない、プラスチックを循環する社会システムの構築を目指します。

これからも、当社グループならではのアプローチによって社会的価値・経済的価値の両方を創出することで、「世界のCSV先進企業」を体現していきます。

(更新:2022年7月)