CEOメッセージ

2025年5月30日
代表取締役会長CEO
最高経営責任者
CSV先進企業に向けて、戦略の実行あるのみ
戦略の実行を加速、収益力の向上に手応え
2024年3月から、私が代表取締役会長CEOを、南方健志氏が代表取締役社長COOを務める体制に移行しています。私たちキリングループは、あらゆる経営環境の変化が起きても企業として存続し、持続的成長を実現していくための羅針盤として「Creating Shared Value (CSV)」を2013年から掲げています。社会が抱える課題を私たちの強みで解決すると同時に、経済的価値を創出するというCSVを経営の柱とすることによって、企業価値の最大化を目指す。その使命を果たしていくために、不確実性の高まる現在においてはCEOとCOOの二人体制で経営の実行力を高めることが必要であると判断しました。
地政学的リスクの高まり、気候変動問題、生成AIをはじめとしたテクノロジーの加速度的な進化など、挙げればきりがないほどのビジネス環境の変化があり、不確実性はますます高まっています。二人体制へ移行後、日々の事業オペレーションについてはCOOが担うことで、私はCEOとして中長期的な視点でグループ全体のあり方や経営戦略をじっくりと練って行動し、そして投資家の皆様をはじめとした各ステークホルダーと対話する時間を以前よりも確保できるようにしました。
このように経営体制を強化することで、2024年はファンケルの連結子会社化や、協和発酵バイオのアミノ酸事業等の譲渡合意など、事業ポートフォリオの変革を一段と加速できました。これらは2023年のブラックモアズ(Blackmores)のM&Aに続くヘルスサイエンス事業での大きな意思決定であり、ようやく成長のための基盤が整いました。長期経営構想である「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」で掲げた「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」という将来の姿に向けて、私たちは着実に前進しています。この点については、投資家の方々との対話を通じても一定のご理解とご評価をいただいていると認識しています。
業績面においても、2024年の連結事業利益は目標を上回り、過去最高を達成できました。親会社の所有者に帰属する当期利益については、ヘルスサイエンス事業における将来に向けた変革を決断したことに加え、インドのビール事業の減損によって減益幅が大きくなりましたが、構造改革にめどをつけた後の2025年には、親会社の所有者に帰属する当期利益においても大幅増の1,500億円を見込んでいます。当社グループ全体の収益力が向上してきたという手応えを感じています。
不確実性に備えた盤石な事業ポートフォリオで成長につなげる
昨年までは、主力事業の競争力強化や事業基盤の整備に注力してきましたが、2025年以降は、酒類・飲料事業、医薬事業、ヘルスサイエンス事業のそれぞれを成長ステージへと移行させます。私は、将来的には、酒類・飲料事業、医薬事業、ヘルスサイエンス事業の3つがそれぞれ連結事業利益の3分の1ずつを担う形を理想とし、経営環境の不確実性にも耐えうる事業ポートフォリオへ変革したいと考えています。もっとも、ヘルスサイエンス事業がそのレベルに到達するには少し時間はかかるでしょう。けれども、必ず成し遂げられると確信しています。
なぜなら、私たちには医薬事業を育て上げたという実績があるからです。振り返ると、当社グループが医薬事業に参入した約40年前、立ち上げから10年ほどは赤字が続きました。しかし、そこで赤字を理由にやめるのではなく、必ず成果を出せると信じて事業を育て続けました。これを実現できたのは、キリンビールをはじめとした酒類事業がしっかりと稼いで経営を支えてくれていたからです。まさに両利きの経営の典型事例であり、挑戦を続けた医薬事業が現在ではグループをけん引する利益を生み出すまで成長しています。
そしてその挑戦は、今度はヘルスサイエンス事業へと引き継がれます。既存事業が堅調であり収益基盤が盤石である今だからこそ、ヘルスサイエンス事業に挑むことができるのです。酒類事業は、少子高齢化に加えて健康志向の高まりや世界的なアルコール規制強化といった逆風が吹いており、将来的にも消費量の減少が予想されます。もう一つの医薬事業は、創薬やパテントクリフ、薬価改定などの難しい壁があります。これら2本柱だけでは企業としての持続的成長がおぼつかない。将来、リスクが顕在化した場合には、ヘルスサイエンス事業がグループ経営を支える役割を担う、そのような状況を見据えて、現在の取り組みがあるのです。
また、当社グループが各事業を展開するエリアとしては、日本、アジア・パシフィック、米国を主としており、グループ全体で見ると、EPS構成比はおよそ3分の1ずつとバランスが取れています。地政学的リスクを鑑みれば、今後もこのバランスはある程度保っていくことが望ましいと考えています。もちろん、事業ごとに見れば進出できていないエリアもあります。例えば、ヘルスサイエンス事業にとって米国は非常に魅力的な市場です。とはいえ、足元のアジア・パシフィックで鳴らない太鼓は、米国に持っていっても鳴ることはありません。ですからまずはアジア・パシフィックできちんと事業を成功させることが大切です。すぐにでも進出したい気持ちはありますが、まだ事業展開のための知見や人財が追いついておらず、現実的には難しい。アジア・パシフィックで一番になれるだけの力をつけ、成功を収めた上で、米国をはじめとする他の地域に進出していきます。

必要なのは、専門性と起業家精神を兼ね備えた人財
これまで述べた成長を実現していくためには、人財の育成・確保が喫緊の課題となります。さまざまな構想や戦略があっても、最後にそれを実行するのは人だからです。今、当社グループに一人でも多く必要なのは、専門性と起業家精神を兼ね備えた人財です。
まずは、専門性をもった人財が自分の強みを生かして、もっとイノベーティブな価値を創出していくことが求められます。マーケティングでお客様のインサイトを把握するのも、研究開発でこれまでにないものを生み出すのも、あらゆる仕事の中でAIやデジタル技術を効果的なツールとして使いこなしていくのも、やはり高度な専門性があってこそです。
加えて、起業家精神が必要です。新たなビジネスチャンスを見つけ、革新的かつ独創的なアイデアと、リスクを恐れない行動力で成果を追求する。このような姿勢を身に付けた人財が、成長のために不可欠です。祖業であるビール事業も、100年以上前の創業当時はまだ珍しかったビールを酒販店に2、3本置いてもらうところから始まりました。ビジネスの基本は、そうした一見地味な行動の積み重ねでできています。簡単にはできないからこそ、やりがいがある。歯を食いしばって「何としてでもやり遂げる」という気概を、今一度胸に行動していくことを従業員に求めていきます。人財育成は経営トップの最大の任務として、力強く推し進めていきます。
多様性を受け入れ、挑戦を応援する文化を後世につないでいく
さて、ここで私自身の経験を少しお話ししたいと思います。もう50年前になりますが、私はキリンビールへの入社面接で「この会社はビール事業が安定しているから、ぜひ新規事業をやらせてほしい」と言って、採用してもらいました。周囲からは「変わっているな」と言われましたが、会社は了承してくれて、それで新規事業に関わる営業担当としてキャリアをスタートさせてもらったのです。現場は毎日新鮮で、新しいアイデアが次々と湧いてきました。アイデアは前例のないものばかりでしたが、それでも実現させてもらうことができました。
このように、当社グループにはもともと従業員の多様性を受け入れ、挑戦を応援してくれる風土があります。まさに私自身が経験してきました。良い組織風土は今も根付いています。そして、後世にも引き継いでいかなければなりません。従業員からもっと多くの挑戦が生まれることで、お客様や社会から「キリングループは、世の中が抱えている社会課題を、長年培ってきたさまざまな技術力の強みで解決してくれる会社」であると認めていただける企業でありたい。そのために、当社グループの価値観や行動の指針について、もう一度、私たちの原点に立ち返り、見つめていきたいと思います。
信念を貫き、投資家の皆様の期待に応える
現在、2027年より先を見据えた長期経営構想についても議論している最中ですが、私たちは、もっとイノベーティブな企業でありたいと思います。「世界のCSV先進企業となる」という大きなビジョンには変わりはありませんが、もう一段ギアを上げていきたい。多様な従業員一人一人が、日々の仕事は全てCSVにつながっていると信念をもって挑戦を繰り返していくことで、組織全体でCSV経営を推進していく企業へと進化してまいります。
社会課題を解決するとともに経済的価値として得られる利益を創出し、企業価値の最大化に努めていく。すなわち、当社グループのCSV経営に一層の磨きをかけていくことが、投資家の皆様をはじめとするさまざまなステークホルダーへの責任を果たすことであると、私は確信しております。引き続き、皆様の期待に成果をもって応えてまいりますので、今後も一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。
