COOメッセージ

2025年5月30日
代表取締役社長COO
最高執行責任者
経営と現場が一体となって最大限の力を発揮し、戦略を実現する
経営者が自ら五感を使ってリアルをつかむ
2024年は、各事業の稼ぐ力を高めるため、私のモットーである「現場・現物・現実」の三現主義に基づき、現場の実行力向上に取り組んだ一年でした。投資家の皆様をはじめとしたステークホルダーとの対話の中では「南方の言う現場力とは何なのか」「稼ぐ力にどうつながるのか」というご質問をいただくこともあるため、改めて私の考えをしっかりお伝えしたいと思います。
私は経営を成功に導くには、「正しい戦略」と「内部プロセス」、そして「従業員一人一人のマインドと行動」の3つが必要であると考えています。いくら戦略が正しくても、内部プロセスに問題があれば障害がどんどん起きてしまいます。また、そのどちらもそろっていたとしても、最終的に戦略を実行するのは従業員です。一人一人が、会社の生命線である大事な戦略を理解し、目の前の現実をしっかり自分事として受け止めているか。こうしたことを見た上で経営のかじ取りをしていかなければ、いくら素晴らしい戦略と正しい内部プロセスがあっても、絵に描いた餅で終わってしまいます。経営者自らが現場のリアルな実態をどれだけ把握できているかが、大きな経営戦略を描き、その実効性を検証する上で非常に重要なのです。
私はこの考えに基づき、2024年は国内外の拠点を訪問して集会を開き、2025年4月時点で100回以上、1,000名を超える従業員と対話の機会を持ちました。前向きに頑張っている姿に勇気をもらうと同時に、現場の実態を五感でつかむことで、さまざま課題や改善すべき点も見えてきました。改めて、従業員一人一人の力を100%価値創造に振り向けられるよう、対話集会で得られた課題を経営層に展開し、スピード感を持って取り組んでいるところです。
透明性の高い多様な視点で強い経営体制を構築する
海外を含めた事業会社の経営陣との連携も強化し、日々のコミュニケーションに加えて、毎月1対1、膝詰めで対話する時間を持っています。各社長も現場を精力的に回っており、互いに現場で気づいたことを包み隠さず共有し、リスク含めて率直に対策や改善すべき経営課題を議論しています。各社長の個性や考え方は異なりますが、目指すところに「ブレ」はないと実感しており、より強固な経営体制を構築しつつあります。
また、全ての事業の基盤である「人財」と、イノベーションを生み出す基盤となる「R&D」については、高い専門性と豊富な経験を持つ濱氏と藤原氏を新たに常務執行役員に登用し、執行体制をさらに盤石にしました。加えて、キリングループの目指す事業ポートフォリオにふさわしいスキルをお持ちの方々を、新しい社外取締役としてお迎えしました。此本氏は海外事業、M&AおよびICT・DXについて、三上氏は研究・生産領域および化粧品事業について、それぞれ高い見識を持っています。より多様な視点で戦略やその実行の過程をチェックしてもらうことが可能となります。加えて、当社の社外取締役は、国内外のさまざまな事業所に積極的に足を運び、現場の従業員と対話・交流していることも特長です。こうした取り組みを通じて、人財や各事業の実態を経営陣全員が温度差なく把握できていることは、当社グループの大きな強みとなっています。
短期と中長期の双方の成長を実現する
さて、2024年は売上収益と事業利益ともに過去最高を記録しましたが、多くの事業会社が増収増益となったのは、単年度の取り組みの結果ではありません。過去の失敗に学び、試行錯誤を重ね、目標達成しようという強い意思が行動にも現れたからであり、実行力が向上してきた証左と言えます。また、ファンケルのTOBではブラックモアズ(Blackmores)買収時と同様に、過去のM&Aの経験、失敗から学んだことを糧にして、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)に大変力を入れました。
一方で、親会社の所有者に帰属する当期利益については、次の成長ステージに向けて事業構造に関わる費用を全て計上したことで、大きく減少しました。これらは問題を先送りにしないという判断であるものの、経営としての先見性や分析力の甘さを真摯に反省しています。事業利益のみならず最終利益を増幅させてこそ、真に稼ぐ力が高まっていることをお示しできることから、2025年度は大幅増を目指します。財務KPIについては「平準化しないEPS」へと変更し、ボトムの利益へのコミットを強め、目標達成に向けて取り組んでいきます。
そして新たに、事業計画のあり方も見直しました。これまで中期経営計画として3カ年固定の計画を作成していましたが、長期的に到達すべきゴールを設定した上で、1年ごとにローリングする計画へと変更しています。外部環境の変化はますます激しくなっており、環境変化に合わせて戦略を毎年機動的に見直すことで持続的成長が実現できると考えます。一方で策定サイクルは変わっても、私たちが目指す山頂に変わりはありません。その時の状況に合わせて登るルートを適切に選んでいくことで、短期と中長期の目標の双方を実現していきます。
2025年は単年度の目標を達成しながら、中長期的な成長の実現に向けた布石をしっかり打っていく一年とします。
まず、2019年以降、将来の成長ドライバーとするべくヘルスサイエンス事業へ投資を続けてきましたが、投資先行から成長実現へステージを変える転換期と位置付け、年内に事業の黒字化を必ず実現します。
酒類事業では、キリンビール、ライオン(Lion)ともに、ブランド力の真価が問われる中、注力ブランドへの集中投資を継続し、さらに付加価値のある商品、サービスを提供しながら、収益性の高い事業へとレベルを一段上げていきます。
飲料事業では、キリンビバレッジはヘルスサイエンス飲料商品の構成比を高め、商品ポートフォリオシフトをさらに加速させます。コーク・ノースイースト(Coke Northeast)は当社グループとして40年以上の歴史がありますが、人財・設備への着実な投資によって、ここ数年で飛躍的に成長しています。経営と現場の信頼関係を強みに、オペレーショナル・エクセレンスにさらなる磨きをかけていきます。
医薬事業では、協和キリンのグローバル戦略品「クリースビータ」「ポテリジオ」が予定通り伸長し、会社として売上収益5,000億円規模に成長しました。開発中の新薬KHK4083もポジティブな結果が出ており、期待が高まっています。2025年はKHK4083の臨床試験のための研究開発費用が発生しますが、これは将来のさらなる飛躍に向けた投資と捉え、当社グループ全体でカバーしていきます。
これら4事業がそれぞれ自律的に成長するだけでなく、事業間で人財・技術・ナレッジを還流させ、世界で類を見ない新たな価値創造を行える存在を目指します。

ワクワクする未来を見据え、価値創造の源泉となる組織能力へ投資
私たちはすでに、KV2027の先に向けた議論を始めています。CSV経営を通じて持続的な成長を実現し、特に「健康」という重要な社会課題に対して、当社グループの強みでお客様のさまざまなライフステージに貢献し、「キリンがいてくれて良かった」と、世界で一番信頼される企業グループになりたいと考えています。そうした未来を築くために、基盤となる4つの組織能力に投資を行い、イノベーションを次から次へと生み出す企業に変革していきます。
1つ目は人財です。特にヘルスサイエンス事業への人財投資を強化し、まずはアジア・パシフィックで最大級のヘルスサイエンス企業となり、グローバルで勝てる組織へと進化させます。人事制度は、従業員一人一人のチャレンジやアクションファーストを推進する制度に変えていきます。一人一人が専門性を磨き、グローバルで戦える「強い個」と、多様性あふれる「強いチーム」を生み出すための人財投資を積極的に行います。
2つ目はR&Dです。私たちには、高い技術力に基づくイノベーションを、過去から連綿と起こし続けてきた自負があります。しかし、それに甘んじることなく革新的技術を生む発想力や、実際のビジネスにつなげる社会実装力をさらに磨かなければなりません。プラズマ乳酸菌のように0から1を生み出すことは容易ではありませんが、健康に関する新しい素材や新しい機能開発には今後も投資を続けますし、1を10にも100にもすることにも注力していきます。
3つ目はICTで、外部連携とともにDX人財の獲得・育成を進め、経営や事業プロセスを飛躍的に高度化させます。また、AIの導入を積極的に推し進め、人とAIが共存できる状態を早急につくり、業務の効率性向上と新たな価値創造のスピードを大胆に加速させます。
4つ目はマーケティングです。酒類・飲料事業を中心としたブランドビジネスにおける当社グループ独自のナレッジやノウハウを、生活者起点にこだわって高次元に発展させると同時に、それらの強みをヘルスサイエンス事業にも展開していきます。各地域の生活者ニーズを深く捉えることで、お客様の期待を上回るイノベーションを次々に起こすグループに進化していきます。
「実行力」とは一人一人の創意工夫と執念の集大成
実行力を上げるのに近道は決してありません。私がここで申し上げている取り組みの多くは地道なものであり、継続して初めて本物になります。実行者である私たちが常に、お客様や患者さんとつながっている感覚を持ち、それらの人たちの笑顔を思い浮かべること。そして、そのために自分が何をやるべきかを常に考え、創意工夫することが大切です。青臭いと思われるかもしれませんが、そうした思いや執念を持って、経営者から現場の従業員まで全員が行動できれば、高い実行力を発揮できる強いグループになると信じています。
今後も経営陣、現場の従業員、現場を支える従業員がワンチームとなって実行力に磨きをかけ、稼ぐ力を高めていきます。そして社外のステークホルダーの皆様にも誠心誠意、説明を尽くし、対話を続けながら、皆様からの共感や応援をいただけるような経営を進めてまいります。