2008年7月23日

バイオマス由来プラスチック(土壌中に分解するプラスチック)
の原料となるL-乳酸を高効率で生産する酵母の分子育種に成功

 キリンホールディングス株式会社(社長 加藤壹康)のフロンティア技術研究所(横浜市金沢区、所長 水谷悟)は、グルコースからバイオマス由来プラスチック※1の原料となるL-乳酸を高い効率で生産する酵母の作製に成功しました。この研究成果は8月27日に第60回 日本生物工学会大会で発表します。

  • ※1 植物や微生物など、短期間で再生可能な生物由来の有機性資源(バイオマス)を原料とした環境配慮型のプラスチックのこと。糖類を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸を重合させた「ポリ乳酸」の実用化がもっとも進んでいる。

 地球温暖化防止が世界共通の課題となる中、バイオマス由来プラスチックは土壌中の微生物などの働きにより短期間で分解する生分解性を有していることから、とくにカーボン・ニュートラルに優れ、石油を原料に作られる従来のプラスチックと比較して、化石資源の消費削減や大気中の二酸化炭素の濃度上昇を回避できる資材として注目されています。
 その代表であるポリ乳酸は、原料となる乳酸の光学純度※2が高いほど、耐熱性などの点でプラスチックとして優れた性能を持つことが知られています。しかし、一般的に乳酸を産生する乳酸菌では数%の異性体が混じり、乳酸の光学純度が低くなるという問題がありました。そこで近年は、もともと乳酸をつくる性質をもたない酵母に乳酸脱水素酵素※3の遺伝子(LDH遺伝子)を導入して、グルコースなどの糖から乳酸を生成させる技術が試みられています。

  • ※2 乳酸にはL-乳酸やD-乳酸などの異性体があり、一方の比率が高いほど光学純度が高い。光学純度の高いL-乳酸を重合させたポリ乳酸を、D-乳酸を重合させたポリ乳酸と混合することで耐久性に優れたプラスチックができる。
  • ※3 グルコースを代謝する過程で生成されたピルビン酸を脱水素して乳酸に変換する働きをもつ酵素

 この乳酸生産酵母については、トヨタ自動車株式会社(社長 渡辺捷昭)がサッカロマイセス・セレビシエ酵母(Saccharomyces cerevisiae※4を宿主として外来種のLDH遺伝子を導入し、光学純度の高いL-乳酸またはD-乳酸を産生する酵母の作製に成功していましたが、これらの酵母はグルコースから乳酸を産生すると同時にエタノールを産生するピルビン酸脱炭酸酵素※5の働きを抑えることが難しく、乳酸の生産効率がやや低いという問題がありました。
 そこで、発酵技術に強みをもつ当社は、トヨタ社の技術協力を得、キャンディダ・ボイディニ酵母(Candida boidinii※6を宿主として、エタノール生成を抑えた乳酸生産酵母の作製に取り組みました。
 ピルビン酸脱炭酸酵素の遺伝子を破壊してウシ由来のL-LDH遺伝子を導入した酵母(KY2199株)※7を作製し、10%のグルコースを含む栄養培地で発酵させたところ、48時間後にグルコースからの変換効率90%以上という高効率で光学純度99%を超えるL-乳酸が生産されました。グルコースから効率よく高純度のL-乳酸をつくる性質をもった酵母の作成に成功したことで、今後のバイオマス由来プラスチックの普及に役立つことが期待されます。

  • ※4 酵母の中でも、全ゲノム解析などの研究が世界的に進んでおり、工業的なストレス耐性が高いなど優れた特長を持つ酵母
  • ※5 嫌気条件下でピルビン酸をアセトアルデヒドに変換する酵素。アセトアルデヒドが還元されてエタノールが生成する。
  • ※6 酵母の中でもクラブトリー効果(グルコース濃度が高くなると酸素が十分にあっても酵母の酸素呼吸が抑制される現象)が起こりにくい酵母
  • ※7 遺伝子組換えにより、ピルビン酸脱炭酸酵素の生成を抑え、乳酸脱水素酵素を作る性質を付与した酵母

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