2009年3月26日

芽胞形成菌に関する研究2種
〜“世界初の硬さの測定”と“生残リスクモデリング”〜

 キリンホールディングス株式会社(社長 加藤壹康)のフロンティア技術研究所 食品安全科学センター(高崎市、所長 水谷悟)とキリンビバレッジ株式会社(社長 前田仁)の開発研究所(横浜市、所長 出内桂二)は、お客様の食品の品質に対する関心が高まる中、より高品質な食品製造技術を目指し、微生物制御技術をはじめとした様々な研究に取り組んでいます。
 その一環として、一般的に殺菌耐性が高く検出が困難といわれる芽胞形成菌(以下、芽胞菌)※1への対策や検出方法について継続的に研究しており、今回、この芽胞菌に関する2つの研究結果を、3月28日に日本農芸化学会2009年度大会で発表します。

  • ※1 耐熱性を有する芽胞(胞子)を形成する細菌。乾燥、熱など悪条件に耐え、再び環境条件がよくなると発芽し分裂増殖する。

 芽胞菌は、長期休眠能※2を持つ硬い芽胞(胞子)を形成するため、熱や酸などに耐性があり、その制御は食品工業での微生物保証において重要な課題です。しかし、芽胞菌は菌種により耐性が異なる上、検出が困難なため、清涼飲料の新商品開発時には、適切な殺菌条件の設定に通常数週間以上かかります。また、新たな芽胞菌が発見されても培養が難しいため、耐性の確認に長期間を要します。今回、芽胞菌の制御条件を設定する期間の短縮に向けた新たなアプローチとして、ナノレベルの芽胞の硬さから耐性を推定する研究と、制御条件の最適化につながる芽胞菌の生残リスクモデルの開発を実施しました。

  • ※2 生存条件が悪化すると活動を休止し、低い活性の状態で生命を維持する能力

■ 芽胞形成菌の硬さの測定(キリンビバレッジ社、島津総合分析試験センター)

 直接測定する手段のない、生きた微小な芽胞細胞の硬さを、株式会社島津製作所および島津総合分析試験センターの協力により、同社のナノサーチ顕微鏡※3を利用することで、世界で初めて測定可能にしました。光学顕微鏡やレーザー顕微鏡で超微小目標物(芽胞)に狙いを定めた後、走査型プローブ顕微鏡※4のカンチレバーを芽胞の表面に一定距離押し込み、生じる反発距離比で芽胞の硬さを測定しました。複数の菌種で、測定した芽胞の硬さとその菌の耐熱性とに高い相関関係が認められたことから、培養と加熱試験以外の評価方法がなかった芽胞菌の耐熱性を、わずか一個の芽胞からリアルタイムかつ非破壊的に評価できる新たな可能性が生まれました。今後、芽胞菌制御の条件を環境に合わせて迅速に設定する技術への応用が期待されます。また、この生細胞の硬さを非破壊で測定する技術は、様々な微生物の性質の解明や、ES細胞※5を医療に用いる際の品質評価など幅広い分野での応用の可能性も期待されます。

  • ※3 島津製作所の超高倍率三次元測定顕微鏡。ミリメートル領域からナノメートル領域までの計測が一台で実行できる。
  • ※4 接触センサーに似た、先端の尖った微小なカンチレバーで試料表面をなぞるように動かし表面状態を拡大観察する顕微鏡。
  • ※5 Embryonic Stem cellsの略。未分化の細胞で、どんな細胞や組織にもなる能力を秘めているため、万能細胞とも呼ばれる。

■ 芽胞形成菌の生残リスクモデリング(キリンホールディングス社、キリンビバレッジ社、農研機構)

 一般に食品製造における微生物制御の手段は複数あり、全ての条件を網羅的に検討することは困難なため、従来は、いくつかの制御条件を設定して微生物の増殖性を確認してきました。今回、乳入りコーヒー飲料で高温性嫌気性芽胞菌の接種試験を行い、複数の制御条件における菌の残存性をロジスティック回帰分析※6することで、データのない条件を含めた残存リスクを定量的に算出するモデルを開発しました。今後、このモデルを用いることにより、制御条件を最適化する際の効率化が期待されます。

  • ※6 「あるか/無いか」のように2つの値をとる結果を、結果にいたる要因から確率的に予測する方法

 キリングループは「おいしさを笑顔に」をグループスローガンに掲げ、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、「食と健康」のよろこびを提案していきます。