キリン株式会社(社長 磯崎功典)の基盤技術研究所(所長 水谷悟)は、特定のカビによって産生され、ヒトへの健康被害を与える危険性のあるカビ毒※1のひとつである「パツリン」を、核酸を素材としたRNAアプタマー※2を用いて検出することに世界で初めて成功しました。この研究成果は、日本農芸化学会2013年度大会で3月25日に発表します。
- ※1カビが産生する二次代謝産物の中で、人または家畜の健康を損なう危険性のある有害物質
- ※2特定の分子に対する結合能を持つRNA(リボ核酸)
核酸工学は、核酸のもつ物性や配列により無限の組み合わせを利用して有用素材を作り出す技術です。この技術を応用して最も技術開発が進んでいるのが、分子認識機能を持たせた核酸配列であり、アプタマーと呼ばれています。同じように分子認識機能をもつ抗体※3に比べて、アプタマーは生産にかかるコストが低く、低分子認識に優れているという特性があります。一方、パツリンはりんご果汁に混入しやすいカビ毒で、ヒトへの健康被害が危惧されています。りんご果汁は、世界的にも消費量が多く、清涼飲料やアルコール飲料にも展開されているために、世界的に規制が強まっており各国でパツリンの規格基準値が設定されています。
- ※3抗原と特異的に結合する能力を持つタンパク質
キリン社は食に携わる企業として、お客様に安全で安心していただける商品やサービスの提供に取り組んでおり、このような問題にも着目して研究を進めてきました。現在、パツリン検出には簡易な分析手法が実用化されておらず、高度な機器分析が必要となっています。そこでキリン社は、核酸工学技術を用いて簡易にパツリンを認識するアプタマーを世界で初めて取得することで、将来の簡易検出系への応用の可能性を見いだしました。
まず、アデニン、ウラシル、グアニン、シトシン※44種類の塩基をランダムにつなげた1,000兆種類からなるRNAライブラリを作成し、ランダム配列を自己切断リボザイムと呼ばれるRNA切断活性を持ったRNA配列に接続して、パツリンと結合した際に特定部分が切断されるように設計しました。このライブラリを用いて、試験管内分子進化技術(SELEX法)※5によりパツリンと結合するRNAアプタマーの選抜を繰り返したところ、1つがパツリンに特異的に結合することが明らかになりました。
- ※4核酸を構成する塩基の種類。生体内にも広く分布する有機化合物
- ※5SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment) 法
ターゲット分子に結合するアプタマーを取得するものであり、生命の自然進化を試験管内分子レベルで行う方法
この研究成果によって、パツリンの検出がアプタマーを用いて簡易に行える可能性が示唆され、将来的に工程管理等への応用が期待されます。また、この方法を応用することにより、これまで簡易検出ができなかった飲料や食品中に含まれる特定の物質の検出系の創出や、有用物質生産などが可能となり、今後さまざまな分野への応用が期待されます。
キリングループは「おいしさを笑顔に」をグループスローガンに掲げ、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、「食と健康」のよろこびを提案していきます。