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[食領域]

<参考資料>細胞内温度を簡便に測定できる技術を開発!

~2年連続で農芸化学会大会トピックス賞受賞~

  • 研究・技術

2015年4月17日

キリン株式会社

キリン株式会社(社長 磯崎功典)の基盤技術研究所(所長 近藤恵二)は、東京大学大学院薬学系研究科との共同研究で、特殊な計測機器を必要とせずに細胞内の温度を簡便に高精度で計測できる蛍光プローブ※1を開発することに成功しました。この研究成果は、3月28日(土)の日本農芸化学会2015年度大会で発表され、一般演題2,055件の中から選定された28題に与えられるトピックス賞を受賞しました。当研究では昨年に引き続き※2トピックス賞を受賞し、細胞内温度計測技術に関する研究に注目が集まっています。

  • ※1 蛍光を発する試薬の一種。蛍光色素を含む構造体で、観察者が観測したいものや事象を蛍光で可視化するもの。
    今回新たに開発した蛍光プローブは、温度によってその構造が変化し、それに伴い蛍光強度などが変化する。
    これを導入することで、細胞内温度変化を生きている状態で鋭敏にとらえることができる。
  • ※2 2014年「混ぜるだけで導入可能な細胞内温度計測用の新規蛍光性温度センサーの開発」で受賞。

細胞の複雑な機能発現は細胞内温度と密接な関係にあると古くより考えられており、最近の研究では細胞の重要な働きである細胞分裂周期と細胞内温度に密接な関係性があることもわかっています。今回、当社基盤技術研究所と東京大学は、一般的な計測装置である蛍光光度計や蛍光顕微鏡※3を用いて細胞内温度を高精度で測定可能とすることに成功しました。
両者は、以前より細胞内の温度計測技術の開発に取り組み、2013年には細胞への導入を簡易にした蛍光プローブを開発※4し、それまで非常に困難だった酵母細胞内の温度計測を実現しました。しかし、精密な温度計測を行うには、蛍光寿命と呼ばれる値を計測する特殊な機器が必要でしたが、今回、汎用化に向けての課題を解決しました。

  • ※3 蛍光強度を測定する装置で、多くの研究所および工場に設置されている。
  • ※4 2013年10月11日発表「東京大学と共同で、細胞内温度を計測する技術を開発」。

具体的には、蛍光プローブの構造内に2種類の性質の異なる蛍光分子※5を組み込むことにより、2つの蛍光分子から発せられる蛍光の強さの比をとることで、温度を正確に検出できるようにしました。その正確さは、ほ乳類細胞内において28~44℃の広い範囲で0.2℃以下の温度差を検出できるほど(図1)で、報告のある細胞内温度計測用の蛍光プローブの中でも最高レベルの精度です。また特殊な顕微鏡を用いなければ観察できなかった細胞内の温度の分布も、一般的な蛍光顕微鏡で可視化できるようになりました(図2)。

  • ※5 温度が上がると蛍光が強くなる蛍光分子Aと、温度が上がっても蛍光の強さはほとんど変化しない蛍光分子Bの強さの比(A/B)をとり、あらかじめ取得した検量線に照らし合わせることで、温度を算出できる。今回は、従来用いていた蛍光分子Aに加え新たに蛍光分子Bを設計し、感度を大幅に高めることに成功した。

今後は、この蛍光プローブを用いて、熱を産生する細胞と言われている褐色脂肪細胞や筋細胞の評価への応用を検討します。これらの細胞は、肥満解消や体温維持などのヒトの健康を考える上での重要なターゲットとも言われており、お客様の健康維持に貢献できる素材の開発などに活用する予定です。なお、この蛍光プローブは試薬として販売が予定されています。

キリングループは、あたらしい飲料文化をお客様と共に創り、人と社会に、もっと元気と潤いをひろげていきます。

【図1】

  • 図1 ほ乳類細胞(MOLT-4)内の蛍光プローブの温度応答性(左図)と温度分解能(右図)。
    細胞周囲の温度を上げながら、蛍光プローブの蛍光強度の比を計測した(左)。
    温度分解能は、何℃の温度差を検出できるかを示す(右)。

【図2】

  • 図2 ほ乳類細胞(HEK293T)内の温度分布(37℃で培養)。
    左は細胞の形がわかる明視野像で、右が蛍光プローブを導入した細胞の温度分布の可視化。
    3つの細胞の温度分布が可視化されており、どの細胞にも核と考えられる円形状の温度の高い部分が存在している。黒い線は20μmを示している。

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