[ヘルスサイエンス領域]

―世界初※1の研究成果!「脳の健康維持」に貢献―

乳由来成分「βラクトペプチド※2」による、「脳血流」改善効果を解明

~小型ウエアラブル測定器によって、脳血流改善効果の“見える化”にも成功~

  • 研究・技術

2021年6月23日

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典)のキリン中央研究所(所長 吉田有人)は、東北大学加齢医学研究所教授で株式会社NeU(社長 長谷川清)のCTO(最高技術責任者)を務める川島隆太博士指導のもと、乳由来の成分「βラクトペプチドの1つであるGTWYペプチド※3(以下、GTWYペプチド)」が、加齢に伴い低下する前頭前野の脳血流を改善することを世界で初めて臨床試験で確認しました。
また、脳血流の改善効果を、光トポグラフィー技術(fNIRS)※4を搭載した小型ウエアラブル脳血流測定器※5(以下、ウエアラブル測定器)を用いて“見える化”することにも成功しました。
※1 ホエイプロテイン由来のペプチドとして世界初/当社調べ(2021年6月10日時点の公開情報に基づく)
※2 乳タンパク質に由来し、トリプトファン‐チロシン(WY)のアミノ酸配列を含み認知機能改善作用を有するペプチドの総称。
※3 βラクトペプチドの主要な成分で、グリシン‐トレオニン‐トリプトファン‐チロシン(GTWY)という4アミノ酸配列のテトラペプチド。
※4 光トポグラフィー技術(fNIRS)とは、微弱な近赤外光を用いて大脳皮質部分を計測し画像化(見える化)する技術。身体への負担が少なく、脳波計測や磁気共鳴などの他の脳計測技術に比べると、より日常に近い環境で脳活動の計測が可能。
※5 2チャンネル(2CH)の光トポグラフィーで、ウエアラブル携帯型の脳活動計測装置。脳血流を手軽に計測することを重視した、軽量でつけ心地のよい脳血流測定器。スマートフォンやタブレットでのリアルタイム・ワイヤレス計測が可能。

当社は、この研究成果を2021年6月24日(木)から26日(土)まで開催される「第10回日本認知症予防学会学術集会」で発表します。また、本学会で開催されるシンポジウムで、「食から認知機能を考える会」(代表:国家公務員共済組合連合会虎の門病院顧問 大内尉義)と連携し、当社の脳研究「キリン脳研究」に関する取り組みも併せて発表します。

研究の背景

4人に1人が高齢者※6の超高齢社会を迎えた日本において、加齢に伴う認知機能の低下や認知症は大きな社会課題となっています。認知症は加齢に伴う脳内の変化で生じると考えられており、日々の食事を通じた早期からの予防に注目が集まっています。近年の日本人を対象とした疫学研究では、牛乳や乳製品の摂取が、認知症や認知機能低下のリスクを低減すると報告されています※7。
当社は東京大学や協和キリン株式会社と連携した長年の脳科学研究の成果として、カマンベールチーズなどの発酵乳製品に多く含まれるβラクトペプチドに認知機能改善効果があることを発見しました※8。また、慶應義塾大学と連携し、βラクトペプチドの中でもGTWYペプチドに、記憶力および注意力の改善効果があることを臨床試験で確認しました※9。この効果は、脳の前頭前野に関連することが示唆されていましたが、そのメカニズムは明らかにされていませんでした。
メカニズム解明に向け、当社は脳血流に着目しました。脳血流は、脳に酸素や栄養などのエネルギー源を運ぶ役割を担い、脳が正常に機能するために不可欠です。加齢に伴う認知機能低下は、脳血流の量が低下することで引き起こされると考えられています。当社は、GTWYペプチドには脳血流の量を増加させる働きがあるのではないかと考え、本研究を実施しました。
※6 内閣府 令和2年版高齢社会白書
※7 Ozawa M, et al, Journal of the American Geriatrics Society, 2014, 62(7): 1224-1230
※8 Ano Y, Nakayama H, et al., Neurobiology of Aging, 2018, 72: 23-31
※9 Kita M, Ano Y, et al., Frontiers in Neuroscience, 2019, 13: 399

本研究の概要

50人の健常中高年を対象に、ランダム化二重盲検比較試験※10を実施し、GTWYペプチドを含むサプリメントの摂取が脳血流に及ぼす作用を臨床試験で検証しました。負荷課題中の脳血流量を34チャンネル(34CH)の脳血流測定器(光トポグラフィー)を用いて測定した結果、GTWYペプチド摂取群では、背外側前頭前野における脳血流の変化量が、プラセボと比較して有意に増大しました。本結果により、GTWYペプチドが記憶力や集中力を高めるメカニズムの一端が解明されました。
上記とは別に、114人の健常中高年を対象に、GTWYペプチドを含むサプリメントを摂取する臨床試験を行いました。この臨床試験では、2CHのウエアラブル測定器(図2写真)による測定で、プラセボと比較して認知機能課題実施中の脳血流が有意に増大することを確認しました。この臨床試験では、当該仕様のウエアラブル測定器を用いた脳血流改善効果の検出に世界で初めて成功しました。
※10 参加者を無作為に偽薬と実薬の群に分け、試験完了までいずれの群かわからない、治験で用いられる試験方法。

  • 2チャンネル(2CH)
    小型ウエアラブル脳血流測定器

試験方法

1. 45歳から64歳の健常な男女50名を対象に、GTWYペプチド摂取群とプラセボ摂取群を無作為に割り付けた二重盲検化試験を行いました。摂取0週目および6週目に認知機能課題実施中の脳血流量を34CHの光トポグラフィーを用いて測定しました。

2. 50歳から75歳の健常な男女114名を対象に、GTWYペプチド摂取群とプラセボ摂取群を無作為に割り付けた二重盲検化試験を行いました。摂取6週目に認知機能課題実施中の脳血流量を2CHの光トポグラフィーを用いて測定しました。

試験結果

1. 34CHの光トポグラフィーを用いた試験では、GTWYペプチド摂取群では、摂取6週目のワーキングメモリー課題中の背外側前頭前野の脳血流量が摂取0週目からの変化で、プラセボ摂取群と比較して統計学的に有意に高まることを確認しました(図1)。

2. 2CHの光トポグラフィーを用いた試験でも、GTWYペプチドの6週間の摂取により、GTWYペプチド摂取群では背外側前頭前野の脳血流量がプラセボ摂取群と比較して有意に高いことを確認しました(図2)。

これら2つの試験成果は、国際誌の「Aging (Albany NY)」※11および「Journal of Clinical Medicine」※12に掲載されました。
※11 Ano Y, et al., β-lactolin increases cerebral blood flow in dorsolateral prefrontal cortex in healthy adults: a randomized controlled trial, Aging (Albany NY). 2020 Sep 29;12(18):18660-18675.
※12 Ano Y, er al., Effects of β-Lactolin on Regional Cerebral Blood Flow within the Dorsolateral Prefrontal Cortex during Working Memory Task in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial, J Clin Med. 2021 Jan 28;10(3):480.

  • 図1 34CH光トポグラフィーを用いた脳血流測定の結果
    介入前後の空間認知機能課題中の脳血流の測定結果。βラクトリン(GTWYペプチド)摂取群ではプラセボ群と比較して有意に背外側前頭前野領域の脳血流変化が増大(q = 0.045)。Bars are mean ± S.E. (プラセボ群; N=25, 「βラクトリン」群; N=24)

  • 図2 2CH光トポグラフィーを用いた脳血流測定の結果
    介入後の2-back課題中の脳血流の測定結果。βラクトリン(GTWYペプチド)摂取群ではプラセボ群と比較して有意に背外側前頭前野領域の脳血流変化が増大(p = 0.027)。(プラセボ群; N=45, 「βラクトリン」群; N=47)

今後の展開

今後は、βラクトペプチドの一つであるGTWYペプチドが脳血流を改善する効果と、この効果をウエアラブル測定器で可視化できたことを活用して、大学や自治体などと連携しながら「脳の健康」サポートに向けた取り組みを進めます。また、新たな商品開発にも今回の研究成果を活用します。

共同発表者である川島隆太博士からのコメント

脳の血流を改善することは、認知機能を維持していく上で非常に重要な要素の一つです。今回の臨床試験により、βラクトペプチドが脳血流を改善し、記憶力や集中力を高めるメカニズムの一端が明らかになりました。超高齢化社会の中で、認知機能維持のために食習慣の果たす役割は、今後ますます大きくなっていくと考えられます。
また、NeUのウエアラブルな脳血流測定器により、簡便にその脳血流改善効果が可視化できたことは大きな喜びです。本取り組みがより加速し、脳の健康サポートがより身近な社会となることを期待しています。

  • 株式会社NeU
    川島隆太博士

「キリン脳研究」について

日本では平均寿命が伸び続けており、超高齢社会となっています。2025年には高齢者のうち5人に1人が認知症になる※13と推計され、健康寿命の延伸は社会課題となっています。キリングループでは、日々の明るい気持ちや悩みは脳の働きと密接に結びついていることに着目し、ヘルスサイエンス領域を中心に「脳の健康」を守り新たなよろこびを生み出す、「キリン脳研究」を進めています。
「キリン脳研究」は、キリンならではの発想と技術で脳の健康を守ることを通じ、社会課題の解決に貢献するとともに、一人ひとりが社会の中で、自信や希望、そして気持ちのゆとりを感じながら暮らせるこころ豊かな社会の実現を目指していきます。
※13 厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業. 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究. 平成26年度総括・分担研究報告書. 2015.

キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(以下KV2027)」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※14先進企業になる」ことを目指しています。その実現に向けて、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループが長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」の技術をベースにして、人々の健康に貢献する「ヘルスサイエンス領域」(ヘルスサイエンス事業)の立ち上げ、育成を進めています。
※14 Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造。

1.発表演題名 「乳由来βラクトリンの摂取は背外側前頭前野における脳血流を増大する」
2.学会名 「第10回日本認知症予防学会学術集会」
3.発表日 2021年6月24日(木)~26日(土)
4.発表者 キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 阿野泰久、小林啓子
株式会社NeU 川島隆太博士

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