[ヘルスサイエンス領域]

乳由来「βラクトペプチド」が持つアンチエイジング作用について、新たなメカニズムを解明!「日本農芸化学会2022年度大会」トピックス賞を受賞

~脳の老化に関わる「ミトコンドリア」の機能を改善~

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2022年4月27日

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典)のキリン中央研究所(所長 矢島宏昭)は、乳由来の「βラクトペプチド※1の1つであるGTWYペプチド※2(以下、βラクトペプチド)」が、脳の老化に重要な役割を果たすミトコンドリア※3機能を改善するメカニズムによって、脳神経を保護することを世界で初めて明らかにしました。
当社はこの研究成果を、2022年3月15日(火)から18日(金)に公益社団法人日本農芸化学会が主催した「日本農芸化学会2022年度大会」で発表し、一般演題1346件の中から選定された29演題に贈られるトピックス賞を受賞しました。当社の脳科学研究の成果が評価され、日本農芸化学会で賞を受けるのは4度目となります。
※1 乳タンパク質に由来し、トリプトファンーチロシン(WY)のアミノ酸配列を含み認知機能改善作用を有するペプチドの総称。
※2 βラクトペプチドの主要な成分で、グリシン‐スレオニン‐トリプトファン‐チロシンの配列を持つペプチドの総称。
※3 細胞内小器官の一つで、細胞の生命維持に必須なエネルギー物質「アデノシン三リン酸(ATP)」を生成する。

研究背景

超高齢社会を迎えた日本国内では、加齢に伴い生じる脳の老化現象は認知機能の低下などを招き、大きな社会課題となっています。認知機能の維持改善には食事などの日常生活の改善が重要で、疫学研究では牛乳や乳製品の摂取が認知機能低下リスクを低減する事が報告され、注目を集めています※4。
当社は東京大学や協和キリン株式会社と連携した長年の脳科学研究の成果として、カマンベールチーズなどの発酵乳製品に多く含まれる乳由来の認知機能改善ペプチドとしてβラクトペプチドを発見し、ヒトの認知機能維持に役立つことを報告しています※5。また、βラクトペプチドが加齢に伴う脳の老化現象を予防することも明らかにしています※6。
※4 Ozawa M, et al, Journal of the American Geriatrics Society, 2014, 62(7): 1224-1230
※5 Ano Y, Nakayama H, et al., Neurobiology of Aging, 2018, 72: 23-31
※6 Ano Y, et al., Frontiers in Nutrition, 2021, 8:724134

研究概要

当社は加齢に伴う脳の老化や認知機能低下に対する、βラクトペプチドの効果とメカニズムを深く解明するため、「ミトコンドリア」の機能に着目して研究を行いました。ミトコンドリアは、細胞のエネルギー産生工場として知られ、加齢に伴い機能が低下すると、認知機能の低下や脳の老化につながることが分かっています。
βラクトペプチドの効果検証には、加齢に伴い脳内で溜まる老廃物として知られる「アミロイドβ」を添加した神経細胞を用いました。この神経細胞では、「アミロイドβ」の添加により細胞のエネルギー産生低下やミトコンドリアの形態異常などの老化状態が誘導されていますが、βラクトペプチドを加えると、ミトコンドリアのエネルギー産生量の増加が見られ、形態異常が起こったミトコンドリアの機能を改善することが明らかになりました。さらに、βラクトペプチドは、「アミロイドβ」の添加によって生じた脳神経細胞死を抑制しました。
これらの結果から、βラクトペプチドはミトコンドリアの加齢に伴う機能低下を改善し、摂取すると脳の老化予防につながる可能性が明らかになりました(図1)。

  • 図1 βラクトペプチドによるミトコンドリアの機能改善で見られた抗老化作用

今後の展開

キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※7先進企業になる」ことを目指しています。
その実現に向けて、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループが長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」の技術をベースにして、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス領域」(ヘルスサイエンス事業)を立ち上げ、育成を進めています。ヘルスサイエンス領域では、「免疫」および「脳機能」などを重点領域に定め、さまざまな研究開発を行っています。今後は、大学や自治体などと連携しながら「脳の健康」サポートが可能な社会の実現に向けた取り組みを進めます。
※7 Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造。

「キリン脳研究」について

日本は4人に1人が高齢者※8の「超高齢社会」となっており、2025年には高齢者のうち5人に1人が認知症になる※9と推計されています。また、昨今の急激な社会環境変化もあり、脳や心の健康増進は大きな社会課題となっています。キリングループでは、脳科学研究を通じて「脳や心の健康」を守り、新たなよろこびを生み出す「キリン脳研究」を進めています。
「キリン脳研究」は、キリンならではの発想と技術で脳の健康を守ることを通じ、社会課題の解決に向けて貢献するとともに、一人ひとりが社会の中で、自信や希望、そして気持ちのゆとりを感じながら暮らせるこころ豊かな社会の実現を目指していきます。
※8 内閣府 令和2年版高齢社会白書
※9 厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業. 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究.
平成26年度総括・分担研究報告書. 2015.

キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。

発表概要

1.発表演題名 「ホエイ由来ペプチドβラクトリンはマウスおよびヒトiPS細胞由来アルツハイマー病モデル神経細胞のミトコンドリア機能異常を改善する」
2.学会名 日本農芸化学会2022年度大会
3.発表日 2022年3月15日(火)~18日(金)
4.発表者 キリンホールディングス株式会社R&D本部キリン中央研究所 綾部達宏、髙橋千佳、大屋怜奈、阿野泰久

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