[ヘルスサイエンス領域]

免疫細胞pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)の活性を可視化する尿中因子を世界で初めて発見

  • 研究・技術

2025年10月3日

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社(社長 COO 南方健志、以下「キリン」)のヘルスサイエンス研究所(所長 村島弘一郎)は、和歌山県立医科大学(理事長・学長 中尾直之)が主宰し、NPO法人ヘルスプロモーション研究センター(理事長 有田幹雄、以下「HPRC」)が取りまとめているコホート研究「わかやまヘルスプロモーション研究」に参画し、血液中のpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)の活性と関係する尿中の物質を調査する研究を共同で実施しました。その結果、世界で初めて※1pDCの活性(pDCのインターフェロンα産生能※2)と関連する複数のタンパク質やmiRNA(マイクロRNA※3)を発見しました。当研究成果は、日本食品免疫学会第21回学術大会(2025年10月2日(木)~3日(金))で発表しています。
※1 PubMed、医中誌WEBに掲載された原著論文に基づく(2025年9月2日(火)調査実施 ナレッジワイヤ調べ)
※2 ウイルスを模倣した刺激を受けた際に、インターフェロンαという抗ウイルス性物質を作り出す能力
※3 18-25塩基程度の非常に短い配列を持ち、遺伝子発現制御を行う生体分子のひとつ

インフルエンザや新型コロナウイルス感染症に限らず、さまざまな感染症が流行しており、年間を通じて持続的な対策が必要とされる中、感染症対策に加え、健康の土台づくりに重要な「免疫ケア」※4にも注目が集まっています。本研究は、免疫の状態を表すpDCの活性について容易に測定可能な指標の探索を目的に、キリンとHPRCが共同で2022年より開始しました。本研究では、pDC活性の高低を判別し得る物質として尿中因子(タンパク質及びmiRNA)に着目し、pDC活性と関連する尿中因子の発見に成功しました。また、pDC活性の高低判別に活用が期待される因子の組合せの探索も行いました。本研究の成果は、25年5月に発表した「免疫」の状態を可視化する独自の検査サービスに活用されます。※5健康の土台である「免疫」を簡便に可視化することは、自分自身の健康状態を把握し、毎日を豊かに過ごすことに繋がるソリューションの一つとして非常に重要な役割を果たす、健康長寿社会を目指すうえで意義あるものと考えます。
※4 規則正しい生活・バランスの良い食事・十分な睡眠・適度な運動など免疫を意識した健康的な生活習慣を行うこと
※5 2025年5月22日 当社ニュースリリース 「免疫」の状態を可視化する独自の検査サービス開発をスタート! | 2025年 | KIRIN - キリンホールディングス株式会社

研究成果(概要)

血中のpDC活性と関連する尿中生体因子の探索を行い、pDC活性と関連するタンパク質・miRNAを複数見出した。pDC活性が高い人は、イムノグロブリンA(IgA)※6をはじめとした複数の免疫関連タンパク質の存在比が尿中で多いことを確認した。

  • 図.pDC活性と尿中IgAの関連

※6 IgA(免疫グロブリンA)とは血中や粘膜に存在する主要な抗体の1つで、ウイルスや細菌から体を守る働きをしています

得られた示唆

pDC活性の高低と尿中のタンパク質やmiRNAのプロファイルに関連があることが世界で初めてわかりました。
また、pDC活性が高い人の尿では複数の免疫関連のタンパク質の存在比が多いことが確認されました。

今後の展望

本研究の成果から、免疫活性(pDC活性)を非侵襲的に評価する方法の開発に繋がる可能性が示唆されました。今後さらなる検討を重ね、簡便な免疫状態の可視化サービスの開発を目指します。

キリングループは自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、心豊かな社会に貢献します。

pDC活性と関連する尿中因子探索研究の研究成果について

pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)とは

細菌やウイルスが体内に入ってきたときに重要な働きをする司令塔役の免疫細胞。pDCが活性化することによって、NK細胞やT細胞、B細胞などさまざまな免疫細胞が活発に働きウイルス感染から防御します。

研究成果:血液中のpDCの活性と関係する尿中のタンパク質を同定

背景・目的

免疫は人々の健康を支える非常に重要な生体防御システムです。pDCは、ウイルス感染防御における最も重要な細胞の1つであり、pDC活性は免疫機能を表す一つの指標です。しかし、pDC活性の測定・評価には採血による侵襲を伴うとともに、専門的な知識や機械を必要とするため、多くの費用と時間がかかり、pDCの疫学的あるいは公衆衛生学的な意義を研究した例は多くありません。そこで、本研究では非侵襲的かつ簡便にpDC活性を測定するための代替指標を見出すことを目的に、pDC活性と関連する尿中因子の探索を行いました。

研究方法

2022年11月に和歌山県にて、51~55歳の住民223名を対象とした特定健診を実施し、キリンが血液中のpDC活性に関するデータを測定しました。過去1年以内にCOVID-19の罹患歴がなく、血中のpDCの割合が全体の中央値以上の参加者のうち、pDC活性が高い参加者(上位25%に含まれる方)を20名、低い参加者(下位25%に含まれる方)を20名選抜し、計40名の尿中のタンパク質及びノンコーディングRNA※6の網羅測定を行いました。
※6 タンパク質を作るための情報を持たないRNAの総称

研究成果①

7,000種類以上のタンパク質のうち、pDC活性が高い群と低い群で差があった※7タンパク質を115種同定しました。(図1)
また、70,000種類以上のノンコーディングRNAのうち、pDC活性が高い群と低い群で差があった※8ノンコーディングRNA(miRNAを含む)を96種同定しました。(図2)
※7 本研究では、p<0.05(student t-test)、かつpDC活性が高い群の平均値とpDC活性が低い群の平均値の比が1.5以上となる場合を差があるとみなした
※8 本研究では、adjusted p<0.1、かつpDC活性が高い群の平均値とpDC活性が低い群の平均値の比が2以上となる場合を差があるとみなした

  • 図1 pDC活性の高低と関連のあるタンパク質(赤いプロット)

  • 図2 pDC活性の高低と関連のあるノンコーディングRNA(赤いプロット)

研究成果②

pDC活性が高い人の尿では、IgAをはじめとする免疫関連のタンパク質が多く存在することが見出されました。

  • 図3 pDC活性と尿中IgAの関連

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