お酒で人生を豊かに

お酒と人のかかわり

数千年も前から、人類が絶えず作り続けているお酒。

飲み物としてはもちろん、ときに文化的・宗教的役割も担いながら、人々の暮らしに寄り添ってきました。

お酒と文化

数千年にわたって親しみ、進化させてきたお酒

人類が最初にお酒を作った時期は諸説ありますが、最古のお酒の一つとされているワインは約7000年前、ビールは約5000年前からだと言われています。

コーカサス地方から広まったワイン作りは、ローマ時代にヨーロッパ全土に急速に広まりました。もともと、神に捧げるお酒とされており、中世のヨーロッパでは、ワインは「キリストの血」と言われるほど、大変神聖で貴重なものでした。

一方ビールは、古代メソポタミアやエジプトから広まったと考えられています。当時ビールは、大事な栄養源で労働の対価であり、その様子は壁画にも残されています。後に現在の本場、ヨーロッパに伝えられ、100種類以上あるビールの大部分は、ヨーロッパが発祥の地です。地形や気候、植生が多様なヨーロッパに広まる過程で、それぞれの土地ならではのビールが次々と生まれたのです。

中世に入ると醸造酒を蒸留する技術が確立され、蒸留酒が作られます。麦ならウイスキー、ブドウならブランデー、サボテンならテキーラなど、各地域の盛んな作物を使った蒸留酒が次々と誕生しました。

このようにお酒は各地の風土に育まれながら多様な進化を遂げ、数千年もの間、世界各地で人々に親しまれてきました。おいしいお酒を作るために、ビールの神ガンブリヌス、古代ギリシャのワインの神バッカス、日本の神話にも大物主神などの守護神をまつっていたのも興味深いところです。昔から宗教的な儀式やお祝いの行事でお酒を用いるなど、人々は飲み物としてはもちろん、文化的な価値も認めた上で、お酒とのお付き合いを続けてきたのです。

日本人とお酒

日本のお酒の歴史

日本人とお酒の付き合いは古く、縄文時代には酒造が行われていたという説もあります。

奈良時代には米と麹を用いた醸造法が確立されたものの、その後の平安時代までは、主に特権階級が飲むものだったようです。お酒が庶民でも入手できるようになったのは、造り酒屋が隆盛しはじめた鎌倉時代以降のことです。

江戸時代まで時代が下ると、現代とほとんど変わらない醸造法で作られたお酒が大量に流通し、庶民も日常的に楽しむようになりました。

そして明治維新後、西洋の食文化とともに、ビールやワイン、ウイスキーといった海外のお酒が広まっていきます。現在のような多様なお酒を楽しむスタイルのはじまりです。

すばらしい日本の飲酒文化

古来、日本では神々にお供えしたお酒をみんなで飲むことで、神様とのつながりを深めようと考えるなど、お酒を神聖なものとして扱ってきました。現代でも、お酒は神棚へのお供えや、お清め、儀式や行事に用いられ、神様と人々をつなぐ役目を果たしています。

このように、日本人はお酒に飲むこと以上の価値を見いだし、お酒との付き合い方を洗練させてきました。

たとえば、江戸時代の随筆などを集めた「百家説林」には、日本人の飲酒の考え方を知ることができます。さらに、足利時代に生まれたとされる「酒道」は「酔っ払うのを目的とするな、酒をもっと優雅で素晴らしいものにしよう」を基本精神に、お酒を通じて礼節を身に付け、精神性を高めようとしました。

桜や月、紅葉など、四季の花鳥風月を愛でながらお酒を楽しむのも、日本人らしい雅な風習です。私たちには、先人たちが研ぎ澄ませてきた、お酒にまつわる美意識が受け継がれているはずです。せめて、お花見で他人に迷惑をかけるような飲み方は慎みたいものです。

飲酒の十徳

「百家説林」より

一、礼を正し

二、労をいとい

三、憂を忘れ

四、鬱をひらき

五、気をめぐらし

六、病を避け

七、毒を消し

八、人と親しみ

九、縁を結び

十、人寿を延ぶ

  • 「労をいとい」は、疲労回復の効。
    「鬱をひらき」は、精神安定、ストレス解消の効。

小泉武夫「酒の功罪」、(社)アルコール健康医学

協会「お酒と健康 Vol.15」より

出典

お酒の効用

気分がほぐれてリラックスできる、コミュニケーションが円滑になる、食欲がわく、料理の味が引き立つなど、お酒にはさまざまな効用があります。

ほっとひと息リラックス

暮らしに癒しのひととき

適量のお酒は、心をほぐしたり、気分転換や安らぎをもたらします。

上手に付き合うことで、日常に潤いを与えるエッセンスにもなるのです。

お酒は種類によって原料も異なり、味わい、香りもさまざまです。最初の1杯として飲むことが多いビールの原料でもあるホップには、気分を落ち着かせたり、食欲を増進させる効果があると言われています。料理とも相性の良いワインは、気分をリラックスさせることでしょう。

ただし、お酒だけで気分転換をしようとすると、体に障害が生じたり、アルコール依存症になることもあります。味や香りを楽しみながら、ゆっくり、ほどよく飲みましょう。

お酒で広がる世界

コミュニケーションが円滑に

コミュニケーションツールとしてのお酒

古来より、お酒は人々のコミュニケーションを円滑にする重要なツールとして人々に寄り添ってきました。

例えば、結婚式での三々九度や乾杯、お葬式で献杯、一年の締めくくりや新年の始まり、仲間を迎え入れ、送り出すときなど、人生のあらゆる節目にお酒が重要な役割を担っています。

このように人と人とを結び、コミュニケーションを円滑にするお酒は、適度に飲めば、私たちの暮らしを豊かなものにしてくれます。

しかし、度を過ぎた飲み方や誤った付き合い方をすれば、予期せぬマイナスを招き、本人だけでなく周りの人をも苦しめてしまう毒にもなる怖さも併せ持っています。

お酒の飲み方は、自分自身を映す鏡です。

正しい知識を身に付けることで、お酒のあるシーンが豊かなものになるのです。

新しい世界への架け橋に

お酒は人と人のコミュニケーションを円滑にしてくれます。本音で語り合って距離が縮まったり、年の離れた人と仲良くなれたりするのは、お酒のある人生ならではの豊かさです。思いがけず、初対面の相手と意気投合することもあるでしょう。

そうして、知らなかった価値観に触れたり、新しい仲間や趣味と出会えたりするなど、自分の世界が広がるきっかけづくりに、お酒が役立つことがあります。

飲酒についての消費者意見

飲酒についての意見 その通りと回答した人の割合
お酒は人と人のコミュニケーションを深める 90.7%
お酒は場の雰囲気を盛り上げる 85.1%
適量のお酒は、人生を豊かにする 82.8%
適量のお酒は、心身の健康に役立つ 80.7%
お酒はストレス解消に役立つ 77.0%
お酒は食事の味を引き立てる 70.8%
お酒は目上や目下の人との関係づくりに必要 70.7%

キリンビール消費者調査結果(2017年夏)より抜粋

食事がおいしい

お酒と料理のいい関係

世界各地にそれぞれ特有の料理があるように、日本酒、ワイン、ビール、ウォッカ、老酒など、その土地土地の料理と相性のいいお酒が存在します。お酒は、リラックスしたムードをつくり、なごやかな食卓をも演出するもので、お酒と料理の絶妙なアンサンブルが、その国、その土地にふさわしい食文化、飲酒文化を豊かに育ててきました。

また、空腹時にお酒を飲むと酔いがすぐにまわり、胃壁などを荒らしてしまうこともあるため、食事をしながらのお酒は、体のためにも理にかなっているのです。

適度なお酒は食欲を増進させ、料理の味を引き立たせてくれます。

中でもビールは、爽快な苦味と炭酸ガスによって食欲増進に大いに効果があると言われています。また、ワインのマリアージュのように、料理に合わせて飲みわけをすると、楽しみ方の幅が広がります。料理とお酒の共通点や組み合わせの意外性を見つけてみましょう。

お酒の奥深い世界

お酒自体にも知れば知るほど、奥深い世界が広がっています。

たとえば、ビールは100を超える種類があり、近年のクラフトビール人気を背景に、飲み方や楽しみ方が多様化しています。ビールが苦手な人でも飲みやすい味わいのものや、ワインやカクテルのようなフルーティーな香りを楽しむ人も増えています。また、ワインやウイスキー、ビールのホップの香りには、気持ちをリラックスさせるアロマ効果もあるといわれています。さらに、食事との組みあわせや飲むシチュエーションもますます進化していくでしょう。

お酒は深めるほどに知的好奇心をくすぐります。飲み方やグラスにこだわってみたり、お酒にまつわる歴史や文化の探求をするなど自分なりの楽しみを見つけることで、豊かで味わいのある時間をもたらしてくれるのです。

大人のたしなみ

より豊かな時間のために

お酒は大人だけに許された楽しみです。しかも、年齢を重ねるごとに経験が豊かになり、お酒とのより良い付き合い方が望めるようになります。

特に、ワインの文化が古くから根付いている欧米では、ビジネスシーンやパーティでワインがコミュニケーションの潤滑油になることがあります。それは、大人のたしなみでもあり、さまざまな国の人が共通の話題として、ワインの味わいや産地などを語りやすいからです。

また、お酒の正しい作法も、大人のたしなみの一つです。日本ではお酒を飲んだら羽目を外しがちですが、TPOをわきまえた品格ある飲み方こそが粋であり、若い世代の良い手本となります。何より、かっこよくスマートに振る舞うことで、飲んだ本人の心が豊かに満たされます。飲み過ぎや、心が波立つ会話とは無縁の優雅なお酒で一日を締めくくるのは、この上ない贅沢です。

お酒と感動

心の動きに寄り添うお酒

慶事や歓送迎会といった、多くの人が集う人生の節目はもちろん、日常でも人と人がふれあう場で飲まれることが多いお酒は、そこで生まれる数々の感動にも立ち会ってきました。

上司が励ましながら差し出してくれた一本、挙式前夜の娘がお酌してくれた一杯、仲間全員で門出を祝ってくれたときの乾杯。お酒はあくまで脇役ですが、お酒を介するからこそ、より伝わる気持ちもあるでしょう。

人々は、うれしいときも、悲しいときも、お酒を手に取ってきました。数ある食べ物、飲み物の中でも、お酒が映画や小説で印象的に描かれることが多いのは、感動はもちろん、喜びや苦しみ、楽しさ、悔しさなど、人々のあらゆる心の動きにお酒が寄り添ってきたからではないでしょうか。