議長メッセージ
資本効率性の向上と変革の視認性向上を実現し新たなる価値創出を目指す
キリンホールディングスでは、さらなる企業価値の向上を目指し、取締役会の実効性を高める取り組みを進めています。
社外取締役として取締役会議長を務める柳弘之氏に、当社の経営改革や「Innovate2035!」の議論について伺いました。
キリンの変革力を支える強み
──2019年3月に社外取締役に就任されて以降、当社の経営改革や取締役会のあり方をどのようにご覧になられていますか。
2019年以降、大きな経営判断を必要とするいくつかの出来事がありました。一つは2019~2020年にかけて発生した、協和発酵バイオの製造手順逸脱で、これは、最終的に協和発酵バイオの抜本的な構造改革につながりました。もう一つが、ミャンマーからの撤退。これは、2021年のクーデター発生後、キリンホールディングスの迅速な判断が見えた事例になったと思います。さらに、ブラックモアズ買収、ファンケル100%化などがありました。
このように、戦略的な事案と問題解決の事案とが同時進行していく中で、社内の経営改革も大きく進んだように思います。特に、組織として機能による横串が強化されたという点です。従来のキリンホールディングスではこの点が弱いと感じていましたが、組織というものは縦と横それぞれがしっかりとつながり合い、全体のバランスが取れている必要があります。私も社外取締役として何度か指摘や助言をさせていただきましたが、今ではマーケティングやR&D、品質、生産、人事など、多くの分野・機能で横串の強化が実現されてきました。また、その過程では、社外に学ぶ姿勢が徹底されていました。キリンホールディングスの社員を見ていて思うのは、とても素直な方が多いということです。他社事例についての勉強もかなり力を入れて取り組む姿勢があり、私が会長を務めていたヤマハ発動機との交流会でも、かなり多くの部門の方にご参加いただきました。
また、買収・売却の意思決定は秀逸です。M&Aにおける買収判断とPMIの精度を高める取り組みがここ数年で進化しており、取締役会での総括を通じて、知見も確実に蓄積されています。特に買収の場面においては、グランドデザインをしっかりと描いた上で、客観性を持った議論を密に実施。そして、会社全体の総力戦として買収に取り組むことが徹底されています。それを強く感じたのが、ファンケル買収の最終取締役会決議での出来事でした。決議の当日、執行の皆さまがそれぞれ一言ずつ喋らせてほしいと言って、自らがコミットする内容について話してくれたのです。本当に総力戦として取り組むことができているのだと感じた一幕でした。他の会社では、意外と総力戦になっていない会社も少なくないのですが、キリンホールディングスではグランドデザイン、客観性、総力戦という3つの要素を漏らさず行っており、こうした点が当社のポートフォリオ改革の原動力にもなっていると感じます。
構築した事業ポートフォリオのレビューにおいても、取締役会で深みのある議論ができるようになってきました。
そして最も重要となるのが、成長戦略の考え方です。「KV2027」の期間中、ブラックモアズとファンケルの買収を行いましたが、それによって理想とする事業の形ができてきたというのは、大きな成果と言って差し支えないでしょう。その上で、次に始まる「Innovate2035!」では、新たな価値創出を行っていく段階へと進むことができました。キリンホールディングスは、酒類、飲料からヘルスサイエンス、医薬にわたる独自性の高い経営戦略を進めていますが、常にこの方向性をぶらさず、確固たる覚悟を持って向き合っているのが、今の経営陣の強さだと考えています。
実効性を高めるための議事運営
──2024年に取締役会議長に就任されましたが、運営面で意識されているのはどのような点でしょうか。
取締役会の実効性を高めるために、議事運営では四つの点を心がけています。一つ目は、大局的な議論の場にする、ということです。そのため、細かい質問などは事前に済ませておいてほしいというのは伝えています。その上で、二つ目は、課題解決を全員で議論して共有する、ということです。取締役会では、キリンホールディングスの社内外の方々が一堂に会するわけですから、やはり執行の皆さまには絞りの効いた、いやキリングループの場合には『搾り』の効いたと言うべきかもしれませんが、論点を明確にしていただきたいと考えています。三つ目は、果断な意思決定をしてもらうことです。社外取締役の役割はブレーキではありません。執行の覚悟を確認し、その後押しすることこそが使命と言えるのではないでしょうか。そして四つ目が、四現感覚のある議論にしたいということです。現場、現物、現実、現人(ダイレクトコミュニケーション)という四つの現に着目し、リアルな議論を進めていきたいと思います。
長期経営構想「Innovate2035!」について、取締役会で行われた議論
──長期経営構想「Innovate2035!」を策定するにあたり、取締役会ではどのような議論が行われましたか。
「Innovate2035!」に関しては、1年以上かけて執行と取締役で議論を進めていきました。取締役会における過程については7つのステージに分けてお話します。1から6までが議論の過程、7が現在も進行中の今後の課題です。
第1ステージは「導入」ですが、当初の段階から、南方代表取締役社長COO(以下、南方COO)が非常にクリアな意思表明を行ってくれました。これはとても印象的でした。ヘルスサイエンス領域の事業化を意思決定したキリンのポートフォリオ経営が正しいと証明し、人と技術を育て、グローバル競合を凌駕するイノベーティブな組織の力をつくるというビジョンが明確に共有されました。
第2ステージではさまざまな定義づけを行いました。一つ目は、三つのValuesと六つのPrinciplesからなる「KIRIN WAY」の設定です。価値観と行動指針を明確にするための議論を重ね、なかでもPrinciplesは徐々に成熟させて今の内容にすることができました。二つ目が、「世界をもっと元気にする」という言葉の意味の深掘りです。元気にするとは、具体的にどういう意味なのか。心と身体の健康と、人と社会のつながり。それが活力を生み、人生を謳歌する社会であるということを共有しました。
第3ステージでは、あらゆる経営方針のベースとなるのは従業員一人ひとりだからこそ、従業員にどうワクワクしてもらうかを考えようと、取締役会で確認し合いました。
第4ステージでは、イノベーションについて議論しました。お客様を単に増やすのではなく、お客様の行動を変えることこそがイノベーションだと定義しました。この定義に関しては、取締役会の中でも納得感を共有できたと感じています。これを、生活者起点のマーケティングと、ワクワクさせるR&Dで実現する訳ですが、そのためには、グローバルな競合を圧倒するような、差別性や独自性を持った研究開発を進めていかなくてはなりません。もちろん、生産、品質、コーポレート等の領域でもイノベーションにチャレンジしていきますが、お客様価値を直接創り出すマーケティングおよびR&Dにはイノベーションをけん引してもらいたいと考えて、この二つの大きな活動を進めることを合意しました。
第5ステージは、ステークホルダーの「目線」について議論しました。従業員目線では、一人ひとりが行動変容するためにも、日々の改善の積み重ねを大切にするという方針を立てました。そして、投資家および社会目線では、「KV2027」によって組織の形の視認性が向上したため、「Innovate2035!」では価値創出の視認性を高めることを目標にしました。
最終の第6ステージも、第1ステージと同様、強く印象に残っています。磯崎代表取締役会長CEO、南方COOより「全員のKIRIN WAYにしていく」との意思表明がありました。私は長期にわたってキリンホールディングスを見てきたわけではありませんが、過去には何かしらの方針を示したにもかかわらず、長続きしなかったり失速してしまったりといったこともあったのかもしれません。そうではなく、経営陣も従業員も目的を共有しながら、一丸となって「KIRIN WAY」を支え、アニマルスピリッツを持つ従業員を増やすことで、目標達成を目指していくことを強く決意しました。キリングループは従業員エンゲージメントが非常に高いのですが、制約を乗り越えて何かを実現する経験には伸びしろがあります。そのような経験を積むことによって、ある意味では非合理的な野心と豊かな感性を持って成長を志向する人財を増やしていく。これにより、今まで以上にイノベーティブな発想と商品が生まれ、価値創出の視認性を高められるのではないでしょうか。
第7ステージは、まさにこれらの進捗を取締役会でどのように見ていくかという今後の課題です。事業会社の自律成長、マーケティングとR&Dによるイノベーション創出、そして人財戦略をしっかりと見ていきたいと考えています。
取締役会における「Innovate2035!」の議論 7つのステージ
- 第1ステージ
- 南方COOによる意思表明
- 第2ステージ
- 「ありたい姿」や「KIRIN WAY」の定義づけ
- 第3ステージ
- 従業員一人ひとりのワクワク感の重要性
- 第4ステージ
- イノベーションの定義づけ
- 第5ステージ
- 価値創出についてステークホルダーからの視認性向上
- 第6ステージ
- 磯崎CEOおよび南方COOによる意思表明
- 第7ステージ
- 今後 - 取締役会で進捗をどのように見ていくか
──投資家の皆さまへのメッセージをお願いします。
取締役会では、企業価値を高めていくための議論に集中したいと考えており、そのためには、資本効率性を高めること、企業変革の視認性を高めることに注力する必要があります。
ぶれないものづくりの精神と現場での作り込みという従来の強みが発揮できている一方で、以前は弱いと感じられていた横串を刺す部分についても進化してきており、確かな変化を感じています。
今後は、イノベーションを通じた勝ち筋がしっかりと共有され、それに投資されているかどうかが価値創出のために必要なことです。具体的な取り組みとしてさまざまな動きが出てきますので、投資家の皆さまにも評価していただけるよう努めてまいります。