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持続的成長への道筋
CFOインタビュー

2016年中計の振り返り

事業構造改革を推し進めすべての定量目標を達成

Qまず、前中計の振り返りをお願いします。
Aキリングループは、2016年中計において、グループの再生を目指し構造改革を進めてきました。
ビール事業では、「コスト」から「投資」へと発想転換を行い、特に国内においては注力ブランドへの投資集中や、販売促進費の効率化を進め、収益力を強化しました。医薬事業ではグローバル戦略品の着実な上市と販売拡大に取り組みました。また、低収益事業については、ブラジルキリンを売却し、ライオン飲料事業の売却も決断しました。さらにノンコア資産の売却や有利子負債の返済などによって財務基盤も強化してきました。
こうした取り組みの結果、既存事業の収益改善が確実に進み、グループのキャッシュ創出力は大きく向上しました。中計3年間のフリーキャッシュ・フローは、目標の2,600億円以上を大幅に上回り、約6,800億円に達しました。2015年には有利子負債は約7,500億円、グロスD/Eレシオは1倍超でしたが、財務体質は大幅に改善し、2018年の有利子負債は約4,150億円、グロスD/Eレシオは0.45倍となりました。2018年には約1,000億円の自己株式取得を実施し、株主還元を拡充しました。
2016年中計の重要成果指標に設定した定量目標と事業利益ガイダンスについても、ROEが17.5%(目標:15%以上)、平準化EPSの年平均成長率が+12.6%(目標:+6%以上)、連結事業利益が1,993億円(ガイダンス:1,960億円以上)となり、すべてを達成することができました。

2016年中期経営計画の振り返り

2019年中計の財務戦略

中長期的な成長を実現する基盤を構築するために

Qどのように今後の成長を実現していくのでしょうか?
Aキリングループは、新たな長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定しました。その最初のステージとして、2019年中計では「新たな成長を目指した、キリングループの基盤づくり」を進めていきます。グループの再生は果たせましたが、中長期視点で持続的な成長を実現するためには積極的に投資していく必要があります。既存事業から潤沢なキャッシュ創出が見込めるうちに、基盤を固めるための投資を行おうと考えています。
Qどのような投資を行うのですか?
A3年間で成長投資に約3,000億円、設備投資に3,100億円を振り向ける計画です。さらに、長期的な成長の実現に向けて組織能力強化のための投資も行っていきます。
設備投資については、可能な限り既存設備の維持・更新に対する投資を抑制し、資産効率と市場魅力度の高い領域には積極的・優先的に資源配分し、投資に対するリターンを高めます。
成長投資については、既存事業の利益成長を最優先します。中でも優先するのが、グローバル市場において安定して高い収益性が見込めるビール事業です。M&Aも含めて投資していきたいと考えています。新規事業領域を含め、メリハリをつけた投資でキャッシュを生む力が強い事業に資源を振り向けていきます。

3ヵ年キャッシュ・フロー計画

  • ライオン飲料事業売却、その他の資産売却等を含み、金額は未定
Qビール事業での投資とは具体的にどのようなものでしょうか?
A地域も事業領域も、成長しているところに投資していきます。地域では、東南アジアを中心に機会探索を行っています。事業領域としては、伸長が続くクラフトビールのポートフォリオを拡充し、グローバルに展開していきたいと考えています。さらに、国内市場ではRTDや洋酒といったビール以外のカテゴリーが今後も伸長することが見込まれており、積極的な設備投資を行い成長につなげていきます。
Q「 医と食をつなぐ事業」ではどのような投資を行うのですか?
Aさまざまな切り口があります。医療・ヘルスケアの充実は重要な社会課題であり、キリングループのCSVコミットメントにおいても「健康・未病領域におけるセルフケア支援」を大きな柱の1つとしています。今後も食から医にわたるグループの経営資源を最大限活用し、社会的価値のある新たなビジネスの創出に挑んでいきます。例えば、海外では遺伝子検査によって一人ひとりの体質(遺伝的特性)を調べ、それぞれに最適な医療やサービスなどを提供する事業が生まれています。当社は、米国で個別化サプリメント事業を展開しているThorne社に出資し、キリングループの高機能素材・商品を提供して同事業の拡大を図り、日本においても独自のビジネスモデルの開発を進めていく計画です。さらに、不足しているケイパビリティについては獲得・強化していきます。
Q組織能力の強化とはどういうことを考えていますか?
A既存事業でも新規事業でも社会課題やお客様のニーズを成長機会としていくために、今ある組織能力を高め、さらには外部から獲得した能力も取り入れてイノベーションを生み出し価値を創出していきます。そのために成長を支える組織能力として無形資産である「ブランド」「研究開発」「ICT」「人材・組織」を強化したいと考えています。
Q具体的にどのように強化するのでしょうか?
A会計上は費用として計上される投資の効果を最大化させたいと考えています。これまでも取り組んできましたが、十分に投資できていない側面がありました。必要なケイパビリティとそこにかける金額を明確にして、継続して強化していきます。例えばICTではAI・RPA活用のためのシステム導入や、デジタルマーケティングの基盤となるデータベース強化を進めます。最新技術によってスピーディーにお客様理解を深め、新たなイノベーション創出によってお客様へ付加価値の高い商品・サービスを届けたいと考えています。また、人材の多様化を進める取り組みにも積極的に投資を行っていきます。将来的なトップライン上昇に貢献するもの、コスト縮小につながるもの、双方からリターンを獲得していきます。

KPIとキャッシュアロケーション

規律をもった投資判断によって企業価値最大化を実現する

Q今回なぜKPIを変更したのでしょうか?
A投資を積極的に行っていく上で、いかに規律ある判断を行えるかが重要です。有利子負債を含めた投下資本を分母とするROICによって、投資に対する収益性をより正確に把握したいと考えています。投資案件については、ROICやNPVを指標にチェック機能を強化し、規律ある投資判断を行っていきます。定量的な財務KPIとしては、株主価値向上のため平準化EPSの年平均成長率5%以上を目標とします。また、資本コストを上回るリターンを創出すべく、ROIC10%以上を目指します。
Qバランスシートマネジメントについてはどのように考えていらっしゃいますか?
A成長投資に関わる資産と変動性のある資産を有利子負債に依存しないレベルでコントロールしていきます。将来の成長に必要な資金を安易に有利子負債に頼ることなく、変動性のある資産を適切にマネジメントして投資余力を創出していきます。例えば、資本コストに見合わない政策保有株式については引き続き縮減し、過去3年間の売却額と同程度の売却を目指します。

2021年に目指すべきバランスシートの状態

成長投資+変動性のある資産を、有利子負債に依存しないレベルでコントロール

  • イメージ図
Qキャッシュ・フローの見込みについてお聞かせください。
A営業キャッシュ・フローは3年間で7,000億円以上を創出する計画です。成長投資と設備投資に加えて、平準化EPSに対する連結配当性向を30%以上から40%以上に引き上げ、配当金として2,100億円以上の拠出を計画しています。
Q最後にメッセージをお願いします。
Aキリングループは再生を果たし、次のステージへ進むことができました。経営の根幹に据えるCSVによって社会課題を解決し、経済的価値を創出していきます。今中計では積極的な投資を行うことを計画していますが、規律ある投資判断によって企業価値最大化に取り組んでいきます。

KIRIN CSV REPORT 2019 CFO インタビュー

経歴

取締役常務執行役員 横田 乃里也

1984年、キリンビール入社。キリンビール生産本部生産部長、キリン人事部長、キリンホールディングス常務執行役員グループ経営戦略担当ディレクターなどを歴任。2018年、当社取締役常務執行役員に就任。