社外取締役インタビュー

取締役会の実効性強化を通じて価値創造に寄与していきたい

社外取締役(取締役会議長)
森 正勝

的確なアジェンダ設定で発言を促し、取締役会における議論を活性化する

取締役会における議長の大きな役割は、的確にアジェンダを設定することであると私は考えています。当日の会議の場で活発な議論が行われるように、各議案を提出する執行部にはその議案に関する課題や代替案をできる限り明確にするようにお願いしています。
キリンホールディングスではグループ経営戦略会議で議案が徹底的に議論され、課題や代替案も含めてよく練られた状態で取締役会に提案されるため、社外取締役も各自の多様なバックグラウンドや知見に基づいた意見を述べやすく、多面的な論議を経て決議に至っています。
例えば長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」と、その第1ステージとなる「2019年−2021年中期経営計画(2019年中計)」の策定においても、基本方針検討の段階から前述のようなプロセスを経て順を追って審議し、決議までに約10カ月をかけました。
また、議長として私がもう1つ注意しているのは、できるだけ多くのメンバーの意見を引き出すことです。一般に取締役会では、社外取締役と経営トップのやりとりが中心になりがちですが、社内の取締役やオブザーバーとして参加する執行メンバーにも発言を促し、多様な視点から議論が進むよう配慮しています。

数値を用いた客観的な議論によって実効性の強化を図る

  • 社外取締役(取締役会議長) 森 正勝

取締役会では、数値などの客観的な根拠に基づいた議論が行われています。当社はROICを重要成果指標の1つとしており、各事業の施策や投資案件、キャッシュアロケーションなどについては常にROICに照らして議論しています。数値指標をベースに議論することで、社外の取締役も議案の是非を客観的に判断しやすく、執行側も提案の論拠として示すことで説得しやすいというメリットがあります。
また、当社では投資案件の審議に際して財務部門によるファイナンス面の課題提起や、法務部門による契約内容やリーガルリスクに関する課題提起が行われます。事業部門の提案とともに、そうした財務・法務のレビュー結果も取締役会で報告されますので、論点を明確にして議論することができます。
取締役会の実効性を確保するためには、社外取締役が事業内容を理解していることが必要です。この点について当社では各事業部門の現場の視察はもちろん、事業会社トップによる取締役会での議題説明を含めたプレゼンテーション、監査役からの往査結果の報告など、事業への理解を深める機会が設けられています。また、監査役は、現場への往査などを通して、執行側の実態をよく理解しており、取締役会においても積極的に議論に参加し、ガバナンスの強化に大きく寄与しています。

もちろん、これで十分というわけではなく、毎年実施する取締役会メンバー全員への自己評価アンケート、フェイス・トゥ・フェイスのヒアリングなどに基づき改善を重ね、取締役会のさらなる実効性向上に努めています。2019年度は、協和発酵バイオが医薬品の製造に関して行政処分を受けました。このことを踏まえて2020年度は事業プロセスを「見える化」する取り組みを注視するとともに、社内倫理が徹底されているか、社内通報システムが機能しているかといった点についてもモニタリングしていく方針です。

成長戦略の実現に向けて各案件を継続的にモニタリングする

これまではグループ全体の長期ビジョンや事業ドメイン、実行計画などを審議することが取締役会の主要なテーマでした。今後はこれらのビジョン・企画が確実に実行され、進捗しているかをモニタリングしていきます。そこが目指す価値創造の鍵を握るからです。
M&A案件についても定期的にレビューを行い、PMIの進捗やシナジーの発現を継続的に確認していく方針です。特に2019年度にファンケルの株式取得などを行ったヘルスサイエンス領域ではこれを重視していきます。
こうした投資後の継続的なモニタリングは、過去のさまざまな経験を踏まえて私たち社外取締役が強く要望してきたものですが、当社は、モニタリングを実行できる体制が整ったと考えています。

企業経営を取り巻く環境が大きく変化する中、新たなビジョンに沿ってガバナンスを強化・進化させていくことも重要課題です。私は、実効性の高いガバナンスを実現するには、特に「執行サイドとボードメンバーの信頼関係」と「執行部門の強いチームワーク」が必要であると考えています。信頼関係ができていないと重要案件がタイムリーに取締役会に上がってこないなど、ガバナンス上のリスクが高まります。当社は今のところボードとの信頼関係も強く、社長を中心とする執行部門のチームワークも良好であると見ています。取締役会の実効性を維持・強化していくためには、そういった面のチェックを欠かさないことも、私たち社外取締役の任務であると認識しています。

  • 社外取締役(取締役会議長) 森 正勝

取締役会の実効性評価

キリンホールディングスは、取締役会の運営や議論の内容などに対する評価を定期的に実施し、「重要な意思決定」機能と「監督」機能の担保に努めています。
2019年度は、第三者であるアドバイザーの調査に基づく評価の視点を盛り込んだアンケートを実施し、取締役会において回答内容と現状の取り組みや改善状況を踏まえて議論・評価しました。評価の視点は、(1)戦略の策定とその実行およびモニタリング、(2)リスク管理と危機管理の監督、(3)健全な企業倫理の周知徹底とその監督、(4)事業買収・撤退などの意思決定の監督、(5)役員報酬および後継者育成計画などの監督、(6)ステークホルダーに対する開示全般の監督、(7)取締役会の構成および運営、(8)実効性向上に向けての強化ポイントの8項目です。その結果、取締役会は全体として適切に機能しており、概ね実効性が確保されていると判断しています。
2020年度は、以下の議論を充実させることにより、取締役会の実効性の維持・向上に努めていきます。

2020年度の議論のポイント

  1. ヘルスサイエンス領域などに対して専門的・客観的な立場から監督・助言を行う「取締役会の構成および運営」に関する議論
  2. グループ理念体系、倫理規程などの従業員理解度・浸透度など、「健全な企業倫理の周知徹底および浸透」に関する議論
  3. リスクのグローバル化・複雑化に合わせた「リスクマネジメント」に関する議論
  4. 環境・社会・ガバナンス(ESG)などの「非財務目標(CSVコミットメントなど)」の視点での議論
  5. 競合・流通動向を踏まえて、中長期的な企業価値向上に向けた全体戦略の実行に必要な「機能別戦略」の議論

経歴

社外取締役(取締役会議長)
森 正勝

アンダーセンコンサルティング(現 アクセンチュア株式会社)の代表取締役社長や国際大学学長などを歴任。2015年から当社社外監査役、2019年より当社社外取締役を務める。