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社外取締役対談

岩田 喜美枝、有馬 利男 岩田 喜美枝、有馬 利男、経歴

2015年6月より、コーポレートガバナンス・コードが施行され、「攻め」のガバナンスとして、いかにガバナンス体制の充実を図るかということが、企業にとっての大きな経営課題になっています。
キリンホールディングスは、社外取締役の取締役会議長への就任や、ボードメンバーに女性役員を任命するなど、企業価値向上に向けたコーポレートガバナンスの充実に取り組んでいます。
ここでは、2016年4月より、取締役会議長を務める社外取締役の有馬氏と、社外監査役から社外取締役に就任した岩田氏に、対談形式でキリンのコーポレートガバナンスに対してのご提言をいただきました。

就任してからこれまでに感じた、キリングループの変化

有馬: 当社は真摯に経営に取り組んでいる会社です。考えるべき経営テーマや課題に対し、役員をはじめ、従業員全員がきちんと認識し、真正面から取り組む社風を私は就任当時から高く評価しています。ただ、紳士的過ぎて泥臭さに欠けていた点もあったかと思います。磯崎社長が普段から指摘されている「実践する力」というか、厳しい競争に何が何でも打ち勝つとか、環境の変化に対して遮二無二対応するという泥臭さにおいてやや物足りない点がありました。しかし近年のビールシェアの反転やブラジルキリンの構造改革などを見ていると、経営課題に対してきっちりと優先順位をつけ、メリハリをつけて実行しているという変化が見られ始めたことは嬉しい限りです。

岩田: 有馬さんと似ていますが、私もとにかく誠実な会社であると思います。経営者も従業員も。一緒に仕事させていただいていて、本当に気持ちがいいし、信頼が置ける。しかしその一方で、かつてのトップランナーとしての気質が少し残っているのか、競争条件や事業環境が悪化した時のスピード感がやや足りない印象もありました。 私は2012年にキリンの社外監査役になったのですが、ちょうどその当時からキリンの収益環境は厳しくなりました。ただ、希望が持てたのは、どこが悪かったのかがはっきりしていたことです。例えば、ブラジルでは経営者の問題も大きかったし、商品リニューアルや販売代理店での失敗などもありましたが、原因がはっきりしていたので、現在はきちんと手が打てていると思います。マーケティング投資が分散していた問題も、だんだん優先順位をつけてやろうということになった。ここ1年で見てみても、明るい兆しが見え始めています。

有馬: 海外に関しては、いかにグローバルな視点を持って経営を行っていけるかが課題。そしてグローバル人材をどう育てていくのか。この点はなかなか時間がかかる問題で、一朝一夕に良くなるというものではありませんが、社外取締役としてしっかりと見ていきたいと思います。

長期経営構想「新KV2021」と新中計について

岩田: 私は「新KV2021」のビジョンに非常に感動しました。経営の成果に「社会的価値の創造」と「経済的価値の創造」というのを、等価値としてならべている。両立させるということを高らかに宣言したものだと感じます。キリンは社会とともに成長していく、それしかキリンが持続的に成長していく道がないのだという認識だと思います。また、戦略の枠組みに「キリングループならではのCSV」が書かれています。CSV経営は持続的成長に必要不可欠なものでありながら、その本質を深く理解し、真摯に取り組んでいる企業は意外と少ない。その点、キリンのCSVには本気が感じられ、極めて先進性のある企業だと高く評価しています。
勿論、まだビジョンのレベルなので、これを今後の年度計画のレベルに反映して、本気で実行していくことがここからのキリンの課題となるでしょう。

有馬: ビジョンというお話が出ましたが、私も同感で、やはり「信念」を持たなければなりません。そして、信念を持つためにはこれでいけるという方法論も持たなければならない。岩田さんもおっしゃったとおり、次の課題は、方法論を示すこと。経営計画とCSVが一体となって、社会的価値と経済的価値の2軸のアプローチで進めていく。そのためにもビジョンをよりかみ砕き、またビルドアップしながら、具体的な方法論を時間軸にどう落とし込んでいくか―それがこれからのキリンに必要なことではないでしょうか。

岩田: 社会的価値を創造することで事業自体を伸ばしていくということを宣言し、また具体的な姿も見え始めている点は評価しています。東北の桃を使った「氷結®」や、各地域の個性を打ち出した「一番搾り」を発売するなど、非常に良い方向に向かい始めた。ただ、スタートしたばかりで、ここから本番。今中計では「健康」をキーワードに打ち出しています。これもどう形にして価値を創造していくかーそこに私は期待しています。

岩田 喜美枝

有馬: 私は時間軸をとても意識しています。企業としては、経営が成り立ち、競争に勝っていかなければ意味がない。東北の桃とか、ある意味では小さな取り組みですが、今はこういった事例を積み上げて一つのビジネスモデルをつくり上げる過程だと考えています。方法論を見つけられれば、それを様々な方面に展開していくという考え方もありだと思います。また、事業以外では、従業員がボランティア活動など社外に出て行くことで、社会の視点が養えることもあると考えています。

キリンのガバナンスの進化について

岩田: キリンのガバナンスについては、私は良い評価をしています。社内取締役の人数を絞ったり、監査役設置会社でありながら、委員会を置いて様々な議論をしている。形で見ると非常に先進的なガバナンス体制を取っていると思います。特に取締役会においては、私たち社外取締役が自由に発言できる雰囲気があります。だからこそ、発言を躊躇することなく、言うべきことをしっかりと言わせてもらっています。勿論、私たちの責任でもありますが、議題の決め方や時間のかけ方などもっと改善すべき点は残っているかと思います。

有馬: 私もまったく同感です。更に一つ加えるとすれば、議長をやってくださいと言われて、非常に戸惑ったし躊躇したのですが、これは日本の企業経営の一つの進化の模索と思いました。お引き受けしたからには、それなりの変化を求めていきたいと思っています。まずは議論の仕方。時間の使い方をもう少し効率的にするためにも、論点をはっきりさせて議論をする、説明をするという形を構築していこうと思います。それと、やはりアクションにつながる合意というか、決議ですね。「だからどうするんだ」とならないよう、取り組みがはっきりとわかるような議論の方法を考えたいと思います。

有馬 利男

岩田: 私は2016年に社外監査役から社外取締役になったのですが、2012年に監査役になった際に、キリンのボードで女性は初めてですと言われ、今回取締役になって、また、キリンの取締役で女性は初めてですと言われました。当社がダイバーシティ経営を重視して、社外取締役の数を増やしたり、女性を入れたりする中で、私に期待されていることは理解しているつもりです。これまでも自然体で発言していたので、社外取締役になってもそこは基本的に変わらないと思います。つまり、私は生え抜きの従業員とは異なり、キリンの外で行政や他の企業の経営を経験していますし、また、女性として、消費者としての経験もしていますから、違った価値観というか、情報を持っています。そういうところを活かして、少数意見であっても恐れずに、当社の常識にとらわれない新しい意見を議論に付け加えることができればと思います。 このように大きな企業の経営の一端を担う、それも厳しい市場環境ですから、非常に大役を引き受けたという、気が引き締まる思いなのですが、これまでの経験を総動員して働きたいと思います。