4年ぶりに、スリランカの紅茶農園を訪問してきました。

  • 環境

2023年11月10日

「キリン 午後の紅茶」はブランドが誕生した1986年からスリランカ産の茶葉を使用しています。持続的においしい「午後の紅茶」をお客様にお届けするためにスリランカの紅茶農園をサポートしています。

キリングループは、おいしい「キリン 午後の紅茶」をずっとお届けするために、2013年から持続可能な農園認証制度であるレインフォレスト・アライアンス認証※1の取得支援を開始し継続しています。2022年末で、スリランカの認証取得大農園の約3割に相当する94農園が、キリングループの支援で認証を取得しています。2018年からは、小農園の認証取得支援も開始しています。
支援を開始した2013年から毎年スリランカ紅茶農園を訪問し、農園マネージャー達とエンゲージメントを行い、課題の把握と解決につなげてきました。
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類へ移行したことを受けた今回の訪問は、4年ぶりとなります。
今回は、大農園にある水源地の保全活動と野生動物を保護するプログラム、および小農園主達との対話を実施しました。

紅茶農園の水源地保全活動

スリランカは、インドの南端に東側にある島国です。火山はありませんが、中央部の最も高いところが約2,000m~2,500m級の山々が連なり、ところどころに高原地帯を持つ地形となっています。
紅茶農園の多くは、標高約600mから約1,500mまでの山の斜面にあります。その中で、僅かに平らな場所に水が湧いている、マイクロ・ウォーターシェッドと呼ばれる場所があり、沿岸部の大都市の水源になっています。
しかし、斜面ばかりの土地で平らな場所は貴重であるため、近隣住民が野菜を栽培したり、放牧に使っている場合が多く、問題となっていました。
危機感をもった複数の農園マネージャー達が、マイクロ・ウォーターシェッドを守る活動を開始し、依頼を受けて一部の資金をキリンビバレッジが支援しています。
具体的には、住民を説得して場所を空けて、その周りを入れないように柵や在来の木で囲みます。さらに、なぜマイクロ・ウォーターシェッドを守る必要があるかの教育を、農園内外の住民に行っています。

左・中央:マイクロ・ウォーターシェッド、右:足を踏み入れて跡が残った泥濘

訪問したマイクロ・ウォーターシェッドの大きさは草野球の球場程度、小さな綺麗な草原のように見えます。しかし、足を踏み入れると、ぐしゃっと靴が沈み、水分を含んだ湿原になっていることが分かります。ここでは、湿原の地下から湧いてきた水と少し高い場所から流れ込む水が、湿原の中で一旦プールされることで、安定して下流の小川に水を供給する仕組みになっているのです。

マイクロ・ウォーターシェッドの端から小川が現れ下流に流れている

柵として使う在来の木も物価高騰で中々手に入りにくいとのことでしたが、さまざまな工夫をして、今後周りを囲んで保護していく予定とのことです。
マイクロ・ウォーターシェッドの水は自分たちの紅茶農園の用水として使うものではありません。しかし、自分たちの紅茶農園から汚れた水を出したくない、貴重な沿岸部の水源を守りたい、という農園の人々の想いに応えるためにも、今後も継続して支援していきます。

自然保護プログラム

次の日には、標高2,300mにあるホートンプレインズ自然保護区※2を訪問しました。ここで行われている若者向けの自然保護プログラムを見学するのが目的です。
スリランカの食物連鎖の頂点にあるのはレオパード(ひょう)です。全土で1,000頭しかいない中で、ウサギを捕まえるための罠に捉えられたり、皮を取るために密猟されたりして、年間20頭が死んでいるそうです。
絶滅したと思われていたブラックパンサー(遺伝子異常で肌が黒くなったパンサー)が数十年ぶりに見つかったものの、罠に掛かって死んでしまった事件を契機に、危機感をもった農園マネージャー達が保護活動を開始しました。長期的に見れば、住民の自然や野生動物への意識を変えていくことが最も効果的であると判断し、農園内の若者を教育していく自然保護プログラムを立ち上げました。
キリングループはこの取り組みに賛同して支援を開始しました。

左:ホートンプレインズ自然保護区入り口、右:何かもらえるかと車に近寄ってきたサンバージカ

その後、自然保護プログラムは紅茶研究所※3やホートンプレインズ自然保護区、NGOなどの協力も得て、紅茶農園で2日、ホートンプレインズ自然保護区で3泊4日の研修を行う定期的に行うプログラムへと発展し、現在では紅茶農園の若者を対象として、1回あたり20名、年間で10回のプログラムを実施するまでになりました。

当日、大変に素晴らしい出会いがありました。
スリランカは多民族国家です。紅茶研究所から派遣された研究者はシンハラ語しか喋れず、紅茶農園の中の茶摘みさんとその家族はタミール語しかわかりません。
そこで、シンハラ語とタミール語の両方が分かる女性が、紅茶研究所の研究者の話を逐一通訳して、紅茶農園の若者に伝える形で研修が行われていました。
この女性が、実は自然保護プログラムの第一回目の参加者だったのです。

左:紅茶研究所の研究員(右)の通訳をする女性(左)、中央:第一回目の自然保護プログラムに参加したことをきっかけにして自然保護NGOに就職した女性、右:同じくホートンプレインズ自然保護区に就職した男性(中央)

左:参加した紅茶農園の若者達、中央:レパードの足跡、右:ホートンプレインズ自然保護区

それまで全く自然に興味を持っていなかった彼女が、プログラムに参加することで自然保護に興味をもったことで就職先として自然保護NGOを選び、プログラム中で通訳を担当しているとのことでした。
同じように最初のプログラムに参加したことで自然に興味をもち、ホートンプレインズの事務所に就職した青年とも出会いました。
このように、自然保護プログラムが若者の意識改革に大きな影響を与え、成果が出ていることに大変に驚きました。

小農園とのエンゲージメント

今回は、小農園の人たちともエンゲージメントを行っています。

小農園主達に「キリン 午後の紅茶 レモンティー」を飲んでいただきました

キリンは2018年から、大農園の認証取得支援に加えて、小農園の認証取得支援も開始しています。大農園は紅茶消費地の需要減退や茶摘みさんの高齢化など、さまざまな問題を抱えています。それを補完する小農園の重要性は、今後ますます高まると判断しています。
しかし、小農園の場合は、一定の地域の小農園にグループを作ってもらい、その中の代表者を教育し、教育を受けた代表者がグループの小農園を教育するという、複雑な形態で進める必要があります。最初にグループに所属する小農園主すべてが認証取得に理解を示してもらわないと始められないなどハードルが高く、なかなか認証取得が広まっていません。

小農園の面積は1ha以下の紅茶農園。いわゆる兼業農家で、農作業がない時には商店で働いたり、運転手をして副収入を得る。紅茶農園が広い場合、茶摘みの際には近隣の女性を雇って行う

今回は、小農園主と直接エンゲージメントを行い、課題の理解と解決策に向けて議論を行いました。
その1つの解決策が「リジェネラティブ・ティー・スコアカード(以下、スコアカード)」です。

「スコアカード」については、以下のリリースをご覧ください。

リリース:再生型農業の実践をサポートする「リジェネラティブ・ティー・スコアカード」をレインフォレスト・アライアンスと共同で開発開始
~紅茶農園の持続可能性向上と「午後の紅茶」のさらなる安定供給へ~
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2023/1004_03.html

小農園に対しては、今後は認証取得支援と「スコアカード」の2つのツールを活用し、原料生産地の持続可能性を高める支援活動を展開していく予定にしています。

※所属(内容)は掲載当時のものになります。

  1. レインフォレスト・アライアンス認証は、自然と作り手を守りながら、より持続可能な農法に取り組むと認められた農園に与えられる認証。
    https://www.rainforest-alliance.org/lang/ja
  2. スリランカ中央高地のホートン平原にある国立公園。標高2,100m~2,300mに位置し、スリランカの3つの主要な川であるマハウェリ川、ケラニ川、ワラウェ川の水源であり、サンバージカやレパードなどが生息。ホートンプレインズ自然保護区を含むスリランカの中央高地は世界遺産に登録されている。
  3. 紅茶研究所(Tea Research Institute)は、1925年に設立された紅茶の栽培・加工に関するスリランカで唯一の国立の研究所。

※所属(内容)は掲載当時のものになります。

価値創造モデル

私たちキリングループは、新しい価値の創造を通じて社会課題を解決し、
「よろこびがつなぐ世界」を目指しています。

価値創造モデルは、キリングループの社会と価値を共創し持続的に成長するための仕組みであり、
持続的に循環することで事業成長と社会への価値提供が増幅していく構造を示しています。
この循環をより発展させ続けることで、お客様の幸せに貢献したいと考えています。