「品質本位」が培う、多様性あるビール文化の創造と地域創生~クラフトビール事業~

  • コミュニティ

2022年02月17日

  • 「品質本位」が培う、多様性あるビール文化の創造と地域創生~クラフトビール事業~

キリンビールは2014年にクラフトビール事業に本格参入し、代官山と横浜にブルワリー併設店舗『スプリングバレーブルワリー』をオープン。その後数々の魅力的なクラフトビールを世に送り出し、2020年3月には缶製品の『SPRING VALLEY豊潤<496>』の販売を開始しました。キリンビールが推進するこれらのクラフトビール事業もまた、キリングループが掲げるCSVパーパスの一つである地域社会やコミュニティへの貢献を体現しています。

今、国内外で人気を博すクラフトビールにおいて、「品質本位」の哲学をもとに100年以上の歴史を有するキリンビールが、地域にどんな価値を生み出すのか、私たちが切り開こうとしているビールの未来についてお届けします。

技術者の矜持によって受け継がれる「品質本位」の哲学

キリンビールは「品質本位、お客様本位」を経営哲学に掲げています。とりわけ「品質本位」の哲学が生まれたのは、キリンビールの創業よりも前のこと。その源流は明治時代の横浜に設立され、やがてキリンビールへと引き継がれるビールの醸造所『ジャパン・ブルワリー』にまでさかのぼります。

  • 明治18年頃の『ジャパン・ブルワリー』

    明治18年頃の『ジャパン・ブルワリー』

横浜で産声をあげた『ジャパン・ブルワリー』は、当時居留地だった山手に住む在留外国人たちによって、日本のビール産業の祖ウィリアム・コープランドの創業した『スプリングバレー・ブルワリー』の跡地に設立されました。当時の日本では、まだビールは浸透していませんでしたが、最新の設備を揃え、本格的なドイツ風ビールをつくろうと試みます。品質の良いビールを醸造することにこだわり、ドイツから資格ある醸造技術者を招聘し、麦芽・ホップなどの原料や機械設備にいたるまでをドイツから輸入するなど、品質に妥協しない姿勢は創業以来のものでした。

この『ジャパン・ブルワリー』は、1907年にキリンビール株式会社へと変わります。当時の品質を守っていたのは外国人技術者でしたが、第一次世界大戦で帰国を余儀なくされたことにより、日本人の手にその技術と精神が引き継がれました。
時は流れ、1923年に発生した関東大震災により、『ジャパン・ブルワリー』から続く山手の工場は壊滅的な被害を受けました。未曽有の危機を乗り越え、新たに横浜市内に建設されることになった新工場では、このピンチをチャンスに変えよう、と技術者を欧米に派遣して最新の醸造技術を取り入れ、技術研究室を増設して品質の向上に取り組みます。その結果、当時はエキス分が高く、濁りが発生しやすかったビールが、技術者たちの技術の結集により、透き通った淡色で“Greenish Yellow”とも呼ばれる色合いのビールを製造することに成功。
「品質本位」の哲学は、その技術を守り、磨こうとする技術者たちの矜持によって受け継がれてきたのです。

品質にこだわるからこその、飽くなきホップの追求

  • ホップ

    「ビールの魂」ホップ 風味を与えるだけではなく、澄んだ透明感のある液体に変え泡立ちを良くします。さらには雑菌を抑え保存性を高めるなど、ビールに欠かせない原料です。

キリンビールの「品質本位」の追求は、醸造技術のみにとどまらず、原料の品質から容器の開発(現在のパッケージイノベーション研究所)にまで及んでいます。
中でも、ビールに特有の芳香や苦みをもたらす原材料の一つであるホップには、強いこだわりを持っています。ビール成長期の1980年頃には、多くのメーカーはコストが安く苦みをつけやすいビターホップの使用量を増やしたり、ホップの使用量を減らす中、キリンビールはチェコの高級ファインアロマホップである“ザーツホップ”の世界最大級の買い手となり、現地に事務所を構えて調達の際には検品するなど、高い品質にこだわり続けてきました。

”ビールの魂“と呼ばれるほど重要な原料であるホップの生産は、日本国内でも行われています。
しかし、生産地域では、農家の高齢化や後継者不足といった大きな課題に直面し、その生産量は最盛期にくらべて大きく落ち込んでいるのが現状です。

  • 会社別日本産ホップ生産量推移 ※出典:キリンビール推計

    会社別日本産ホップ生産量推移 ※出典:キリンビール推計

日本産ホップの7割以上を購入しているビールメーカーとして、キリンビールは安定供給と品質改善に取り組んできました。
例えば、日本随一のホップ生産地である岩手県遠野市では、持続可能な生産体制を確立するため、遠野市やホップ生産組合などと協力し、2018年には農業法人BEER EXPERIENCE社を設立するなど、官民連携でホップ生産維持に努めています。“ホップの里からビールの里へ”を合言葉に、生産のみならず街の魅力を伝える「遠野ビアツーリズム」などにも取り組んできた結果、遠野市は、ホップ生産者としての移住者が増加し、ビールファンの観光客も訪れる街となっています。

  • フレッシュホップフェスト

    その年に収穫された日本産ホップで作ったビールを楽しむ「フレッシュホップフェスト」
    国内の多くのブルワリーやホップ生産者、料飲店、ビールファンがつながるイベントの開催により、日本産ホップの価値向上を目指しています。

また、キリンビールでは、ホップの技術開発や育種開発にも取り組んできました。
日本産のフレッシュな香りに注目し、『一番搾り とれたてホップ生ビール』を2004年の発売開始以来、毎年秋に限定出荷しています。収穫後のホップは品質維持のため、すぐに乾燥させるのが一般的です。しかし、キリンビールは収穫から間もないホップを急速冷凍する技術「凍結粉砕製法」を開発。青草や果実のような香味をふんだんに含んだ冷凍されたホップにより、華やかな香りと奥深い味わいのあるビールに仕上げました。他にも、特許をもつ「ディップホップ製法」や「後熟ホップ」などユニークな技術を有しています。

ホップの育種開発では、『IBUKI』や『MURAKAMI SEVEN』といった新品種を開発。前者は純粋なフローラルの香りを持ち、上品で均整の取れた香味を付与できるのが特徴です。後者は世界に誇る元キリンビールホップ技術者・村上敦司が育種したもの。柑橘系の爽やかな香味のみならず、栽培の容易さも持ち合わせています。
「品質本位」を追求するなかで、ホップの可能性を見出し、日本で作るビールの多様性に貢献しています。

  • 1968年4月4日 日本経済新聞掲載 キリンビール広告
    キリンをキリンとして誕生させる<ホップ・・・・・> ホップこそビールの魂

ホップの追求から、クラフトビールの挑戦へ

  • 『スプリングバレー』の原点「496」

    『SPRING VALLEY豊潤<496>』
    496は、「完全数」の一つ。個性と飲みやすさの完璧なバランスを求めて、一切妥協しないという思いを象徴すると同時に、1から31の合計であることから、毎日飲んでも飽きることのない味わいという意味が込められています。

脈々と受け継がれる「品質本位」を哲学とするからこその、技術とおいしさ、楽しさへの追求。この姿勢が新たな形で花開きます。それが近年、キリンビールが力を注ぐクラフトビール事業です。

1994年をさかいに、日本のビール市場規模は下降の一途をたどり、特に“若者のビール離れ”が叫ばれています。高品質のビールをお求めやすく量産するべく、万人受けする飲みやすい味覚を全てのメーカーが追及した結果、いつしかビール文化から“選べる楽しみ”を奪っていたのです。

「とりあえずビール」に象徴される画一性の対極にあるのが多様性です。
キリンビールが追求してきた確かな品質とともに、お客様に選ぶ楽しみをもご提供したい。この多様性を叶えるビールこそ、個性ある味わいが魅力のクラフトビールではないか。そして、その個性を大きく左右している要素のひとつは、新しく開発されたホップやホップの投入法。こうして、「品質本位」の哲学をもとに、キリンビールが培ってきた技術を活かし、クラフトビール事業に参入していきました。

効率的な大量生産が求められる大手ビールメーカーにとって、クラフトビール事業への参入は大きな挑戦です。それを可能にしたのは、「品質本位」の哲学の実践として、年間1,500種類ものビールを試醸する小規模ブルワリーであるパイロットプラントの存在と、そこでクラフツマンシップを磨き上げるブルワーたちが継承する、明治時代の日本にビール産業の灯をともしたウィリアム・コープランドのパイオニア精神でした。

  • ウィリアム・コープランド

    ウィリアム・コープランド (勝俣 力 所蔵)
    クラフトビールブランド担当は、今でも命日に墓参りを行い、当時の想いを大切にしています。

ウィリアム・コープランドは、ノルウェーでビールの醸造を学んだ後に来日し、1870年横浜の山手に『スプリングバレー・ブルワリー』を立ち上げます。時は文明開化の前夜、日本で初めて産業として継続的なビール製造に成功した人物です。

キリンビールは2011年にクラフトビール事業の構想を練り始めました。“日本ビール産業の祖”であるコープランドのパイオニア精神に倣い、ブランド名を『スプリングバレー』に決定。2014年に本格始動し、まずはプロトタイプをキリンのオンラインショップ『DRINX』のみで限定販売しました。2015年に代官山と横浜、2017年には京都に、ビールの楽しさと多様性を直接伝えるための場として、醸造所併設のビアレストラン『スプリングバレーブルワリー』をオープンし、シグネチャービール『496』を発売。そして、構想開始から10年を経た2021年3月、4品種のホップを組み合わせ、ディップホップ製法を取り入れた『SPRING VALLEY豊潤<496>』を全国の量販店で発売し、多くの方に手に取っていただいています。2022年からは新たに日本産ホップの『IBUKI』を使用して味わいや香りのバランスをさらに高め、日本ならではのクラフトビールを目指しました。

自社製品のさらなるおいしさと品質向上を実現するため、『スプリングバレー』ブランドは積極的にビアコンペティションへと参加し、複数の銘柄が、国際的に高い評価を得ています。
こうした客観的な評価で自社製品の品質を磨き続けるのはもちろん大切ですが、それだけでは“多様なビール文化”は広がりません。

多様性あるビール文化を広げる『タップ・マルシェ』

  • タップ・マルシェ

    4タップの小型ディスペンサー『タップ・マルシェ』
    3Lという少量のペットボトルで充填することで、劣化せずフレッシュなおいしさを提供できます。

多くのお客様が、個性豊かで多様なビールを気軽に楽しむ。そうしたクラフトビール文化を日本に根付かせるため、キリンビールが開発したのが、料飲店に設置するクラフトビール専用のディスペンサー『タップ・マルシェ』です。

『タップ・マルシェ』最大の特徴は、「省スペース多品種の実現」という、料飲店の課題を解決し、4種類のクラフトビールを提供できること。しかも、キリンビール製品以外も含むさまざまなクラフトブルワリーのビールからその店に合う品種を選ぶことができます。

  • みちのくレッドエール

    『タップ・マルシェ』で展開される岩手県のいわて蔵ビール『みちのくレッドエール』

2022年1月現在、『タップ・マルシェ』に参画するクラフトブルワリーは14社。北は東北から南は九州まで味わいも郷土色も豊かなクラフトビールがそろい、お客様に選ぶ楽しみとおいしさをご提供しています。アメリカのブルックリン・ブルワリーの創業者であるスティーブ・ヒンディは、「一見競合ともいえる独立クラフトブルワリーの商品を大手ビールメーカーが販売するのは、世界でも異例」と述べていますが、多様性が魅力のクラフトビールには、多種多様なクラフトブルワリーの共存が欠かせないとキリンビールは考えています。

1994年に施行された酒税法改正による規制緩和以降、日本では地ビールが一大ムーブメントとなりましたが、品質が不安定な銘柄も多く、地ビールは一過性のブームとして終わった過去があります。この失敗を繰り返さないためには、クラフトブルワリー全体が品質向上を目指す必要があり、「品質本位」を哲学とするキリンビールは、これに貢献していく責任があると考えています。
東北のクラフトブルワリーの集まりである「東北魂プロジェクト」にキリンビール仙台工場が参画し、ビールの品質管理やホップの使用法についてサポートしているのもその活動の一つです。

多様なビール文化は食卓も地域をも豊かにする

  • クラフトビール市場規模の推移(発泡酒含む)ビール市場全体が縮小する中で、クラフトビール市場は年々拡大してきています。

    クラフトビール市場規模の推移(発泡酒含む)※出典:キリンビール推計
    ビール市場全体が縮小する中で、クラフトビール市場は年々拡大してきています。

自らが牽引役となり、多様性あるビール文化の創成に貢献するクラフトビール事業が、社会にどのような価値を創り出すのか。キリンビールのマスターブルワーを務める田山智広は、こう話します。

「多様な価値を認め合うことは、全世界共通の課題です。画一性から脱却できなければ、日本のビール業界もビール文化も、いつか廃れてしまう。各地のクラフトブルワリーと手を携え、多様性あるビール文化を育むことは、この国のビール産業とビール文化の継承に不可欠です。
そしてクラフトビールの存在がもっと身近になったなら、お客様は当たり前のように選ぶ楽しみを体験することができ、お酒を味わうひとときが豊かになります。単に銘柄を選ぶだけでなく、料理に使われる食材の産地に合わせてビールを選ぶこともできる。つまり、地域のクラフトブルワリーの活性化は、ビール文化の存続と発展に留まらず、関連する地域の食産業の振興や、その先の地域創生にもつながると思っています。」

多様な味わいを、食事とのマリアージュとともに楽しめるクラフトビールは、ともに味わう人との会話を生み出し、人と人とのつながりをつくることにもなります。
それこそがお酒の本質的な価値であり、キリンのコーポレートスローガンである「よろこびがつなぐ世界へ」をかなえるものなのです。

キリンビールは、「品質本位」と酒類事業の社会的な存在意義(パーパス)を追究し、笑顔あふれるココロ豊かな社会の実現へと貢献していきます。

プロフィール

田山智広

1987年キリンビールに入社。工場、R&D、ドイツ留学等を経て、2001年よりマーケティング部商品開発研究所にてビール類の中味開発に携わる。
2013年から商品開発研究所所長、2016年4月からキリンビールのビール類・RTDなどの中味の総責任者“マスターブルワー”に就任。「一番搾り」や「本麒麟」も監修。『SPRING VALLEY BREWERY』は企画立案より携わり、現在もマスターブルワーとしてビールの企画開発を監修する。

関連情報

※所属(内容)は掲載当時のものになります。

価値創造モデル

私たちキリングループは、新しい価値の創造を通じて社会課題を解決し、
「よろこびがつなぐ世界」を目指しています。

価値創造モデルは、キリングループの社会と価値を共創し持続的に成長するための仕組みであり、
持続的に循環することで事業成長と社会への価値提供が増幅していく構造を示しています。
この循環をより発展させ続けることで、お客様の幸せに貢献したいと考えています。