持続可能な生物資源の利用ブドウ畑

日本ワインのブドウ畑はネイチャー・ポジティブ

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以後、農研機構)の研究員を招き、長野県上田市丸子地区陣場台地にあるシャトー・メルシャン椀子ヴィンヤードで2014年から実施している生態系調査で、環境省のレッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種を含む昆虫168種、植物288種を確認しています。山梨県甲州市勝沼の城の平ヴィンヤードでも絶滅危惧種を含む多くの希少種が見つかっています。
日本ワインのために遊休荒廃地を草生栽培のブドウ畑に転換することは、事業の拡大に寄与するとともに、貴重な草原を創出し、豊かな里地里山の環境を広げ、守ることにつながっています。

良質で広大な草原として生態系を育む椀子ヴィンヤード

自然には、人の手がかけられていくからこそ守られていく“二次的自然”と呼ばれる自然があります。2018年第14回生物多様性条約締約国会議でも「その他の効果的な地域をベースとする手段(Other effective area-based conservation measures)」、OECMsが提唱されるなどして注目されています。その代表例が草原です。130年前には日本国土の約30%を占めていたという草原ですが、今は国土の1%にまで減少しています。しかし、単位面積あたりの絶滅危惧植物の割合が極めて高く(右上図参照)、生物多様性を保全する上で貴重な役割を果たしています。
日本ワインのためのブドウ畑は垣根仕立ての草生栽培のために定期的に下草刈りを行いますが、このことが畑を良質で広大な草原として機能させ、繁殖力の強い植物が優勢になることなく在来種や希少種も生育できる環境を作ります。メルシャンが「日本を世界の銘醸地に」というビジョンを掲げ、世界で通用する品質のワインを安定的に産出するために高品質なブドウを持続的に確保すべく自社管理畑を拡大していくことが、草原を創出し生態系を豊かにすることにつながっているのです。
2019年からは草生栽培がブドウそのものに与える影響についても調査するために、畑の中のクモや土壌生物、鳥などの調査も開始しました。
クモについては、何を食べているかの調査から開始しています。日本ワインのためのブドウ畑でのクモ類の調査は珍しく、日本国内において極めて珍しい種で国内4個体目の発見となるタソガレトンビグモも見つかっています。
鳥については、ヴィンヤード内で7種55個体が、隣接する林で21種87個体が確認されています。多く見られたのがヒバリやホオジロ、キジ、シジュウカラで、ヴィンヤードが日本で激減している草原の代替地として機能していることが伺えました。土壌生物のミミズについても継続して調査しています。

城の平ヴィンヤードでの調査

山梨県勝沼地区の城の平ヴィンヤードは1984年に日本で最高のカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培するために、垣根式栽培を開始した自社畑です。
2018年~2019年の調査で、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定されているキキョウやギンランをはじめ、多くの希少種が見つかっています。開墾から30年以上が経っており、比較的小さなブドウ畑ということもあり、丁寧な草刈りがその理由だと推測しています。

遊休荒廃地からブドウ畑に転換する過程の調査

山梨県甲州市の天狗沢ヴィンヤードでは、遊休荒廃地から草生栽培の収穫できるブドウ畑になるまでの生態系の変化を調べる世界でも珍しい研究を、農研機構と共同で行っています。
椀子ヴィンヤードや城の平ヴィンヤードでは、整備されたブドウ畑の状態でしか調査ができませんが、天狗沢ヴィンヤードでは造成前の遊休荒廃地の状態から観測ができています。この調査結果により、遊休荒廃地をブドウ畑として整備することで生態系を豊かにしていることが確認できたと考えています。
2016年に開墾前に調査したところ、鹿の食害の影響で極めて多様性の低い昆虫相や植物相しか見つかりませんでした。しかし、2017年に開墾し、柵で囲って以降、ブドウ畑らしい景色に変わっていくにつれ、生態系が豊かになっていく過程が見えてきています。
植生調査では、造成後に一年草群落から多年生群落に徐々に変化し、現在では草原性の指標種であるネコハギ、チドメグサ、ノガリヤスに加えて、ネジバナ、ホタルブクロが見られるようになり、2021年には確認できた種数が前年の88種から103種まで増えるなど、良質な草原としてある程度完成した状態になったと言えます。昆虫調査でも、2021年には環境省と山梨県のレッドデータブックに載る絶滅危惧種であるウラギンスジヒョウモンが見つかり、関東近辺では絶滅危惧種であるキバネツノトンボやクモガタヒョウモンが確認できるなど、天狗沢ヴィンヤードは希少種が生息できる生態系豊かなブドウ畑になったと言えそうです。指標としてチョウを使いますが、造成前はヤマトシジミやジャノメチョウだけが目立つ状態であったのが2019年頃には造成した法面の植生が多様化したことで確認できる種数も増え、2021年には前年の16種から一気に28種まで増えています。

植生再生活動

2016年からは、専門家の指導の下、従業員参加による希少種・在来種の再生活動を開始し、具体的な成果が出ています。シャトー・メルシャンでは、自然、地域、未来との共生を大切なキーワードに設定しており、椀子ヴィンヤードで実践しているもので、秋に、希少種・在来種が生息する場所の枯草を集め、畑の中の再生地に蒔くことで植生再生を目指す活動です。再生場所では、2016年に平均出現種数が8.2種であったものが、2021年には17.9種に増えました。クサフジ、スズメノチャヒキ、カワラマツバ、アオツヅラフジ、ゲンノショウコ、ニガナ、ノガリヤス、スミレ類、ネコハギが定着するなど、順調に良質な草原に変わりつつあります。花の咲く在来種も定着し、秋にはお花畑のようになっています。

クララを増やす活動

NGOや地域の小学生と共に、椀子ヴィンヤードでクララを増やす活動を始めました。クララは国レベルの希少種ではありませんが、絶滅危惧ⅠA類(CR)のチョウであるオオルリシジミの唯一の食草です。2019年に、田の所有者の許可を得てブドウ畑近くの田の畔に生息しているクララの挿し穂を採り、国際的NGOアースウォッチ・ジャパンとそのボランティアの方々に自宅に持ち帰って育てていただきました。2年後の2021年5月末に、育った苗を椀子ヴィンヤードに植え付けました。
2021年からは、椀子ヴィンヤードのある陣馬台地のふもとの上田市立塩川小学校もクララを増やす活動に参加し、2021年に取った挿し穂を校庭の花壇で育て、2022年5月末に椀子ヴィンヤードに植え付けました。同小学校では、農研機構の先生を迎えた環境教室も開催しています。

※ 上記情報は「キリングループ環境報告書2022」の開示内容を転載したものであり2022年6月末現在の情報です。